"ステップ ダンス"
「…て!」
ん…なんだ…?
「…ス!起きて!」
お…きる…?
「タピス!!」
「…ん?」
何かの叫び声と自分の体を揺らす何かにタピスは目を覚ました。
「あぁ…よかったタピス…」
心配そうに自分の顔を覗き込むフロウィの顔を目の前にして、自分が地面に倒れている事を初めて知った。
「…アレ…?」
事態が把握できずに目を擦る。
確か任務中で、テロリストとの交戦中だったはずだ。なのに何故自分は寝てるんだ?
頭に「?」が飛び交う。タピスは妙に重い体を無理矢理起こすとフロウィを見つめた。
「フロウィ…いったい何が…?」
「何がじゃ無いわよ!もう!いきなり倒れてびっくりしたじゃない!」
涙目になりながら自分を睨むフロウィ。どうやら相当心配を掛けたようだ。
「いきなり…倒れた?」
記憶がブッツリと切れている。一体どうしたと言うのだろうか?タピスは頭に手を当てて前髪をかきあげる。記憶を探るが全く思い出すことが出来ない。
「いきなり咳き込んだかと思ったらそのまま倒れちゃうんだもん…。ふぅ…」
フロウィはまだ心配で高まった鼓動が治まらずに、胸に手を当てて深呼吸する。タピスはフロウィの言葉で少し記憶を取り戻した。
「あぁ…」
そういえば、急に肺が機能しなくなったかの様に空気が吸えなくなり、それどころか、それまで中にあった空気すらも外に出そうと喉まで空気が戻ってきて。それを咳という形で吐き出した。そのまま酸素を取り込むことが出来ずにタピスは地面に倒れこんだのだ。
そして酸素を無くした脳は機能を一時失い、タピスは気絶したのだった。
「大丈夫…?まだ顔が青いわ」
フロウィは依然、心配そうにタピスの顔を覗き込む。タピスは苦笑して誤魔化すと、まだ多少フラつく体を無理矢理立ち上がらせた。
「…疲れてんのかな?」
タピスはいつの間にか機能を取り戻した肺で酸素を取り込む様に数回深呼吸をしてから呟く。
最近体の調子が良くないのだ。急に肺が機能を失う。それは今に始まったことでは無かった。
まさか…な…。
嫌な予感が頭をよ切る。それを頭を左右に振ることによって遮ると、タピスはフロウィの方を見た。
「状況は?」
自分が気絶していた間の戦況を知るためにタピスは尋ねた。
「大分こっちが有利に進んでるわ。敵の半分は滅したわね」
まだ心配そうな顔をしているが、フロウィは今の状況をタピスに説明した。
タピスは何かを考えるように上目使いで空を見る。よく晴れた、快晴だった。
「頭は?」
「まだ見付かって無いわね」
まだ敵の首領が見付かってはいないらしい。タピスは再度考えるように空を見る。
「攻めてない陣地は?」
「町の南ね」
「わかった」
タピスはフロウィの言葉に頷くと、足に瞬時に魔力を練り込む。
地を蹴ると、一瞬のうちにタピスはその場から姿を消した。
足に魔力を練りこみ、爆発的な力を生む"ステップ ダンス"。この魔法は高速移動が可能なだけではなく、この爆発的な力と、それによって産まれた助走により、驚くべき力を産めるものだった。
移動速度は10秒もあれば1qは余裕で駆け抜けられる程。それほどの威力を乗せた攻撃を食らったら人間の柔い体など一瞬にして砕け散るだろう。だが、この魔法には欠点があった。
それは移動の際の空気抵抗だ。
それはジェット機の上に生身で乗っている様な物だ。それこそその空気抵抗で体など吹っ飛ぶであろう。
それを可能にするのが魔力だった。魔力を身に纏う事により、空気抵抗をほぼ0に出来る。だが、その魔力コントロールはかなりの緻密な操作が必要だった。
それは魔力に全くの偏りを作らないこと。
空気抵抗を無くすだけの魔力を均等に体に纏わせるのはかなりの至難の技だった。
薄すぎては抵抗に負け、体にダメージが来るし、多くても、今度は魔力が重みとなり自分に抵抗をきたす。
部位に均等に配備されなければ、少なければそこから魔力のガードは崩れ、多ければ、そこが重みとなりバランスを崩す。勢い良く動くなかでバランスを崩せばそれこそ命取りだった。
それ故に、この魔法を使えるのは全世界中にタピスしかいないとされている。
緻密な魔力コントロール。それを瞬時に行うのは並大抵の事では無いのだ。
その魔法を完璧にマスターしたタピスは一気に町の南まで駆け抜ける。途中にいる敵を蹴り飛ばしながら。
敵は何が起こったかも分からずに体を吹っ飛ばし、この世から離れる。タピスはその飛ばした敵を見向きもしないで駆け抜け続けた。
この魔力コントロール。この魔法こそが、タピスを天才と言わせ、13にしてウィクレッタの地位に付かせた要因だった。
タピスは直ぐに南のまだ攻めこんでいない地区にたどり着く。
そこは敵の最後の砦。タピスは臆することなくその場に身を投じた。
それは一瞬の出来事。瞬く間に敵は内臓を散らしながら宙に舞う。一瞬のうちに地獄画図と化したその場所を更に駆けぬけ、タピスは敵の首領を見付けると足を止めた。
風の様に現れたタピスに周りのものは驚愕し、武器を構える。だがその行動すら遅く、完全に構える前にはあの世に御挨拶をしていた。
周りにいた敵を一気に殲滅し、脅え、腰を抜かしながら何事かを叫ぶ首領の頭を足で蹴り飛ばした。
一瞬で肉塊と化した男の首がボトボトと音を立てて落ちて来るのを尻目に、タピスはまた酸欠に陥る。
肺が酸素を拒絶し、タピスを咳き込ませた。
「ゲホ…ガハッ…」
苦しそうに咳き込みながら膝を地に付ける。しばらくすると、また肺は酸素を求めだし、タピスは促されるままに酸素を取り込んだ。
「参った、な…」
自分の体の異変を感じながら、タピスは額に滲出た汗を拭う。
その場にドサリと座り込むと、タピスは快晴の空を見上げた。
この肺の異常。始まったのは数日前から。最近体が思うように動かなくなっていたが、肺が機能を失うのは数日前からだった。丁度、シルハに修行を付けた日だ。
「そういやぁ…」
誰にともなくボソリと呟く。
「シルハ…修行進んでんのかなぁ…」
自分の隊では無い教え子?的な存在の少年をふと思いだし、脳裏に浮かべる。
その少年が今絶対絶命なのも知らずに。

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あきゅろす。
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