それは直感
苔の茂った地面にうつ伏せに倒れた男を見付け、4人は急いで駆け寄る。シルハは真先に男の側にしゃがみ込むと、男の肩を揺らした。
「大丈夫ですか…!?」
だが男は反応せず、シルハに揺らされるままに体を左右に動かす。衰弱し、痩せ細った男の体。呼吸は辛うじてしているが、まるで干からびた死体の様だった。
「助けないと…!」
「外に運びだそう」
シルハの言葉に、ルイは男を担ぎ上げる。
「隊長…何処かなぁ?」
レイチェルは心配そうに衰弱した男の顔を覗き込み、それからキョロキョロと辺りを見回した。
この暗く広い森から特定の人物を見付けるのは難しい。報告した方がいいだろうが、それは不可能に近い事だった。
「とりあえず外に出て村に預けよう」
「だね」
ルイとレイチェルは頷きあってからシルハを見る。
「うん、外に出よう」
シルハも頷くと、レイチェルは呪文を唱えて宙を舞った。
木々より高い位置まで飛ぶと、村の位置を確認する。
「前方に真っ直ぐ行けば村の目の前に出れるよ!」
「わかった。ガイド頼む」
レイチェルはそのまま空からのガイドを続け、地上の3人は外に向かって歩き出した。
「…シル兄…!」
突然マーダがシルハの服を引っ張る。
「どうしたの?」
小さく震える手に疑問を抱きながらシルハは優しくマーダの頭を撫でた。
「あっちが…怖いよ」
マーダは左の方を指差した。かなり震え、目は涙ぐんでいる。シルハはじっとその方を見つめた。
それは直感なのだろうか?
そっちの方に行けば行くほど冷たい世界が広がっている様に感じる。冷気と闇が深まり、全身がそこに進むのを拒絶した。
「ルイ…こっちに居るかも…」
悪魔が本当に存在するならばこういう嫌な感じの場所に居るのでは。出来れば行きたくはないが、任務であればそこに行かなければならないのは当然である。
「…シルハ…」
何かを訴える様にルイはシルハを見た。
「…わかった」
「気を付けろよ」
シルハとルイは一回小さく頷き合う。そしてマーダの前にしゃがむと、シルハはマーダに話し掛けた。
「マーダ、これから俺はあっちに行くからルイと一緒に森を出て」
「え?」
シルハの言葉にマーダは驚く。
「シル兄…あっちに行くの…?」
恐怖に顔が青ざめながらシルハを心配そうに見つめる。シルハは小さく頷いた。
「調べに行かなきゃ…」
出来れば行きたくないケド…。
内心かなりビビっているが、ここはシルハもちょっと格好付けして平静を装った。マーダに心配を掛けたくない。
「シル兄が行くなら僕も行く!」
するとマーダは震えを止め、しっかりした目でシルハを見ながら言った。
「えぇ!?」
シルハはその変貌ぶりに戸惑う。出来ればマーダをあっちに近付けたくない。自分すら近付くなと脳が危険信号を発しているのにマーダをそんな所に送り込めなかった。
「ダメ、ここは言うことを聞いて。じゃ、ルイ。頼むね」
「あぁ、気を付けろよ」
ルイの言葉にしっかり頷くと、シルハは歩み出す。
単独行動はいけないと言われたが、致し方ないなぁと思いながら、シルハは嫌がる足を動かして歩き続けた。
自分を包む空気が一気に冷える。嫌な予感が頭を駆け巡り続けた。
密かに何もない事を願い続けながらシルハは苔で滑らないように慎重に足を前に出す。その時、前方に異変が表れた。
光を遮っていた筈の森に光が射し込めている。シルハは不信に思いながらその場所に駆けて行った。
そこは円状に木がポッカリと抜けた場所。そこは太陽の恵みを受け、芝生が生い茂っている広場みたいな場所だった。
そしてそこにはシルハ以外に誰かが居た。
ウェーブがかった美しいブロンドの長い髪。白いワンピース一枚を身に纏い、完璧なプロポーションが露になった美しい女性がその日を受けた柔らかな芝生の上に寝そべっていた。
女性は人の気配に気付くと目を開き、上半身だけ起こす。
若芽の様に淡い黄緑色の瞳がシルハの姿を捕えた。
「あら…」
女はシルハを見て妖麗に微笑む。その美しい微笑みに男だけでなく、女だって姿に魅取れただろう。だがシルハは違った。
その微笑みに全身にお寒が走る。それは完璧な拒絶。関わりを持っては行けないと何かがシルハに訴え掛けた。
「…可愛い坊やね」
女はペロリと自身の真っ赤な唇を舐める。その行為は他の人間なら惹き付けられただろう。だがシルハには獲物を狙う獣の様に見えた。自分は彼女にとって餌なのだと。
なぜこんな直感が働いたのかは分からない。なぜだかシルハには確信出来たのだ。
この目の前にいる女。それこそがこの森に住む悪魔なのだと。

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