天才少年
"魔法文字"は魔法に関する文字。主に魔法陣作成に使われ、その文字数は数百にも及ぶという。
その文字はそれぞれ意味があり、例えば「あ」と読む言葉だけでも、火を使う魔法か水を使う魔法かなどで文字の形が異なっていた。
それ故に魔法陣を書くのは大変困難とされている。一字でも間違っていたらその魔法は発動しないからだ。
そんな文字を、ケイルはスラスラと読んでいるかの様に目を横に動かす。いや、読んでいるかの様ではなく、実際スラスラと読んでいるのだ。
シルハにとってはわけのわからない記号の羅列をきちんと言葉として読むことの出来るケイルに、シルハは尊敬の念を送らずにはいられなかった。
「うちの隊であんなに魔法文字がスラスラ読めるのはケイル、イリーナ、キルデ、ピゼット、パルス、ゲルゼールとしては有一のフロウィのたった6人だけなんだ」
ヴィクナはそんなシルハの様子を見ながら補足説明をしてくれた。ちなみにキルデは4番隊、ピゼットは10番隊の隊長である。
こうして名を挙げられると多く感じるが、実際数千近い人数のたった6人しか読めないということは相当魔法文字の難しさを表していた。
「隊長は読めないんですか?」
失礼と思いつつもなんとなく聞いてみる。怒られるかと思ったが別に怒った様子はなく、ヴィクナは質問に答えてくれた。
「読めるにゃ読めるんだ。フォスターに居た頃に勉強したからね。ただあんま得意じゃ無かった」
ヴィクナの言葉にシルハは目を丸くした。ヴィクナもフォスターに居たなんて初耳だ。
だがよくよく考えると、ヴィクナはウィクレッタやゲルゼールはだいたいここ出身と言っていたので、別に驚くべき事実では無いことに後に気付く。
「フォスターってそんな事も学ぶんですか?」
「うん。これも立派な魔法知識。ただ難し過ぎてこの授業の時は寝てる奴らばっかだったけどね」
そう言うと、その様子を思い出したのかクスクス笑うヴィクナにつられ、シルハも笑顔になりながらその様子を見ていた。
「なるほどな…」
ケイルは一通り目を通したのか呟く。大量の情報を瞬時に読んだのか、その早さにシルハは驚いた。
「ケイル〜この子どうするのぉ?」
それを待っていたかの様にヴィクナはケイルに声を掛ける。ケイルはすこし考えるように目だけを上に向けてからマーダを見た。
「キミ、いくつだい?」
「8歳だよぉ…」
まだ眩しさに当てられているのか、マーダは目をゴシゴシと擦りながらケイルの問いに答える。ケイルは更に少し考えたように目を伏せてからヴィクナを見た。
「フォスター行きかな」
「っすよね」
ヴィクナは予想通りと言うように溜め息混じりに呟く。いくら戦場経験があると言えど相手はまだ10に満たない子供なのだ。
「シル兄とは一緒に居れるの?」
マーダはその決定に疑問をもち問掛ける。ケイルはその問いに首を左右に振った。
「そこに行ったらしばらくは会えなくなるな」
「イヤ!!!!」
その解答にマーダは即答すると、椅子から飛び降りてシルハに駆け寄りすがりつく。
「シル兄と居れないのはイヤ!!!!」
「マーダ…」
自分にしがみつくマーダの頭を撫でながらシルハは困っていた。マーダを一人にしたくは無いが、しばらくは戦場から遠ざけたかったのも事実だ。マーダに人殺しをさせたく無かった。
「参ったな…」
それを見て、ケイルも困ったように頭を掻く。
だがこの困惑の中にただ一人、困惑せずに意見した者がいた。
「いいんじゃん?入隊させちゃって。8つならあの天才少年が入った歳と同じじゃん」
ヴィクナの言葉に全員顔をヴィクナの方に向ける。
「…タピスか」
ケイルはその言葉を聞いて、考えながら言葉を溢した。
「て、天才?」
シルハは別の言葉に食い付き、ヴィクナに事の真相を尋ねた。
「そ、タピスって数々の最年少記録を出してた天才少年だったの。5歳でフォスターに入ってから3年後にはバーサーカーとして入隊っていう入隊最年少記録。すんごいのは13歳でウィクレッタっていう最年少記録なんだけどね」
「じゅ、13!!!!?」
驚愕の数字にシルハは目が飛び出さん限りに見開く。その顔が面白くてヴィクナは声を上げて笑った。
「あはは!変な顔ぉ!」
「え!傷付くんですけど!」
あまりに正直な意見に正直に傷付くシルハ。それに更におかしさがプラスされたのか、ヴィクナは更に笑いだし、シルハは更に傷付いた。
「……まぁいいか。入るならヴィクナ。任せていいか?」
「あ、あいよ!」
笑いすぎて息が出来ないのか、苦しそうに言葉を切らせながらヴィクナは親指をつきたて、了解の合図をした。
「じゃあシル兄と居れるの?」
「あぁ。どうやら戦場経験もあるみたいだし、出しても大丈夫だろぅ」
ケイルはマーダの質問に笑顔で答える。マーダは嬉しそうに頬を紅潮させてシルハにしがみついた。
「じゃ、ウチの隊に入隊って事で。手間掛けたねケイル」
そう言うと、ヴィクナは部屋を出る。シルハもケイルに会釈をすると、マーダの手を引いて急いでヴィクナの後に着いて部屋を出た。

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あきゅろす。
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