色彩魔法陣と魔法文字
口の前に出した人指し指をペロリと舐め唾をつける。それからパルスは人指し指のみ立てた手を前につき出し、その白い指に付着した己の唾液に魔力を集め出した。
すると、唾が付着していた場所から急に白く発光した粘着質な液体が唾を媒体に姿を現す。その状態でパルスは円を描くように手を動かすと、その跡を示すように、白く発光した粘着質な何かが残り、宙に円を描き出した。
少しその発光を弱めたかと思うと、円の中心付近に手を動かす。また激しく発光させると、円の中に更に2つ、小さな円を描いた。
その後も、発光を強めたり弱めたりしながら宙に浮く円の中に大量の記号や絵を書き込んでいく。
「できた…」
小さく呟くと、パルスの指に輝く白いものは光を完全に失った。
「ま…魔法陣?」
シルハは完成した白く発光する宙に浮かぶ円を見つめた。
本などでは見たことがあるが、実際は見たことが無かったためにシルハは少し興奮する。
魔法陣とは特殊な魔法を発動する時に使われるものだ。緻密に構成された図形を書きだすため、戦闘等には不向きな上に非常に作り出すのが困難で魔法陣を書ける人間は世界的にもかなり少ないらしい。
だが、この困難な作業を経た後には強力な魔法が使えるのだ。マーダを捕える様に目の前に描かれた魔法陣を見ながら、いったいどんな魔法を使うのかとシルハは注目した。
「《円陣より映し出し者に多数(あまた)の色彩を》」
パルスは魔法陣に手を触れながら呪文を念唱する。それと共に魔法陣は虹色に一瞬輝き、そのあとに真っ白な光を目の前にいるマーダに放った。
「わぁっ!!?」
あまりの眩しさにマーダの姿が霞み、そのまま光に飲まれるように姿を消す。存在を確認出来たのはマーダの悲鳴に近い声を聞き取ることが出来たからである。
「…っ!」
一瞬パルスは絶やさずにいた笑みを消す。だが直ぐに元の笑みを浮かべると眩しさで目を細めているケイルの方を向き、話掛けた。
「僕だけじゃ厳しそうだね。ケイル、手伝ってくれるかな?」
「わかった」
その呼び掛けに答えると、魔法陣に近付き手を添える。すると更に魔法陣は発光を強くし、一瞬マーダを更に激しい光で包んだ。
だがその光は直ぐに消え、眩しさで目を白黒させながら頭を抱えているマーダが姿を表した。
そして目の前に浮かぶ魔法陣に異変が現れる。
「へぇ〜…変わった色…だね」
白かった魔法陣は色を付けられ、特殊な色で輝く。
それは赤黒い様にも見え、同時に明るい黄色や水色などにも見えた。
見る角度によって色を変えるその魔法陣を見つめながら、パルスは面白そうに目を細めて笑みを作る。
「なんだ?この色は…」
ケイルもその不思議な色に目を見張った。
「な、なんですか?あれ…」
事態が飲み込めずにシルハは隣にいるヴィクナに尋ねる。
「アレは魔力の色を調べる特殊な魔法でね。魔法陣を書く以外に発動する事は出来ないの。あの魔法を発動すると、真っ白な魔法陣はその人の魔力の色を映し出してくれるんだ」
ヴィクナの説明を聞いたあと、へぇ〜と声を無意識に漏らしながらシルハはマーダの魔力の色を映し出した魔法陣を見つめた。
不思議な色。そう形容するのが一番当てはまるマーダの魔力の色をシルハはじっと見た。赤黒く見える時の色はマーダの手などの色にそっくりだ。
「もう、元に戻っていいよ」
パルスはそうマーダに言うと、マーダは元の姿に戻る。それを確認すると、パルスは魔法陣に手を置き、祓うように横に手を振る。すると魔法陣は煙のように姿を消し、魔法陣があった場所に大量の記号が浮かび上がった。
「な、なんですか?あれ…」
見慣れない記号の羅列にシルハは顔をしかめる。ヴィクナは直ぐにその解を出してくれた。
「あれは"魔法文字"。魔法陣を書いたり、魔法に関する物を文で表したりする時に使われる文字だよ。あの魔法陣…"色彩魔法陣"って言うんだけど、アレは色を調べると同時に魔力についての詳しいデータをとってくれるの。その詳しいデータってのが今浮かんでるあれ」
ヴィクナはそう言うと宙に浮かぶ文字を指差す。マーダの情報は大量の文字として浮遊していた。
パルスはその浮かぶ文字をなぞる様に手を流す。すると文字はなぞられた場所から瞬く間に姿を消していった。
ケイルはマーダの魔力で散らばった資料を拾い集めながら机の上にA3のまっさらな紙を置く。
全て消し終わったパルスはなぞっていた方の手をその紙に当てると、紙が薄く発光し、発光が消えるとパルスは紙からゆっくりと手を離した。
その紙には先程宙に浮いていた魔法文字が印刷されたかの様に並んでいる。
「はいケイル」
パルスはその紙を取るとケイルに手渡した。
「ありがとうパルス。色彩魔法陣が書けるのは君だけだから助かったよ」
「ううん。暇だったから気にしないで。」
ケイルの言葉にパルスは笑みを作る。次に笑みを消さぬまますこし険しい表情になってケイルに尋ねた。
「人員補給はいつ頃になるかな?」
壊滅しかけの12番隊。一刻も早く人員補給をしなければ戦力にならずにろくな任務には行けない。
「すぐやるさ。今募集をかけている」
ケイルの返答を聞いて、また元の笑みに戻ると、パルスは呪文を唱え、闇の回廊を作り出すとさっさと帰っていった。

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あきゅろす。
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