悲鳴から始まる森
深き深き森の中。光など届かぬ闇が支配する其処に、一人の娘が居た。
森の側の村に住むその娘は何かに脅える様に幾度となく後ろを振り返りながらもつれる足を何とか動かし走り続ける。
「もう…止めてよ!!」
娘は自分の背後に向かって叫ぶ。その叫び声は深き森に吸収され、反響することなく声によって震えた空気の振動は四散していった。「私が…何……したのよぉ…」
娘の瞳からは涙が溢れる。だが、娘に迫るそれは足を止める事なく娘を追い続けた。
「お前の魔力が必要なの」
深く暗い森の奥から声が響く。娘はその声を聞いて更に速度を早めた。
「私は…魔法なんか使えない…!ただ…果物を取りに来ただけ…!!」
娘は呼吸を荒げ、必死で声の主から逃げる。
「いいえ…違うわ」
声と共に、背中に風を感じ、娘の体はビクリと揺れた。
「人間にはね、必ず魔力が備わってるの。それを使うも使わないも貴方次第…貴方からは…膨大な魔力の匂いがするわ」
妖麗な女の声。冷たくひやりとする細い指が娘の顔にひたりと触れた。
「あ…」
娘は一気に血の気が引く。
「貴方が…欲しいわ」
耳元に吹きかかる吐息に娘の体が震えた。
それと同時に娘の悲鳴が暗き森に響きわたる。
この悲鳴から全てが始まったのだ――

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あきゅろす。
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