青い手紙
 ある日の朝、シルハ・クリシーズは自宅のポストを調べた。中には手紙が5通ほど入っているのを確認し、それをポストから取り出す。
 その手紙を1枚1枚調べながら宛名を調べ、青い封筒を見て思わず声を漏らした。

「あ…」

 次第に手はワナワナと震え、呟くようだった声は悲鳴へと変わりゆく。

「ギャァァァァ―――!! きたぁ――――!!」

 それは先週受けたある機関の入隊試験の結果通知。



―始まりの1歩─




 その手紙を持って、シルハはダッシュで親友の家に駆け込んだ。
 もう顔馴染みなので、自分の家のようにズカズカと押し入る。階段を上がったすぐの、親友の部屋のドアをノックもせずに開けた。

「テル!」

「ブフッ!」

 あまりに突然の来訪に、テルと呼ばれた青年は飲んでいた麦茶を勢いよく吹き出す。茶色い液体が、綺麗な孤を描いて飛び散るのがシルハの視界に届いた。

「なにしてんだよ! ノックくらいしろ!!」

 どうやら、麦茶が気管に入ったらしい。ゲホゲホと咳をしながら、前髪が茶色、残り髪は黒という奇抜な色合いをした少年は涙目でシルハを睨めつけた。

「それどころじゃない! これ見ろ!!」

 だがシルハはそんな睨みなどお構いなしに、親友、テル・ロイホの言葉を遮り、先程手にした青い封筒を見せつける。刻印が刻まれたそれを、一体何なのかとテルは首を傾げてた。
 シルハに近づいてきて、その手紙を奪うと、封筒の角度を変えて観察をする。【FANTASMA】と刻まれたその刻印を見たとき、彼の顔は見事に青ざめた。

「こ…これ」

 情けなくかすれた声でなんとかこれだけ言葉にする。続きをシルハは乱れた息遣いで話した。

「ファンタズマの試験結果通知だよ」

 シルハの言葉を最後まで聞くか聞かないかのうちに、真っ青になりながら勢いよくシルハにその青い封筒を突きつける。そして、そのまま一目散に部屋から飛び出していった。



 【FANTASMA】

 それは先週シルハとテルが受けた国の傭兵機関である。最強の武術と魔術を極めたものたちが集まり、国の警備、武力集団鎮圧など他多数の任務をこなす軍事機関だ。かなり大きな機関で、所属人数は数千にもおよぶ。

 本日、心待にしていたと同時に絶対届いて欲しくなかった結果通知書が届いたのだ。
 階段を駆け降りていったテルはまたどたどたと音を立てながら勢いよく駆け登ってきた。

「どうしよう…届いてる」

 先程部屋を飛び出した時よりもかなり具合いが悪そうな顔をしている。とりあえず開けようというシルハの提案に、おぅと小さく頷いた。

 向き合うように床に2人は正座し、無言で青い封筒へ視線を落としてみる。無償に重い空気が流れていて、お互いの荒い息づかいだけが耳に飛び込んできた。

「いいか? どっちかだけが受かっても恨みっこなしな?」

「分かってる、ガキ臭いこと言うなよ」

 テルが言った言葉に、シルハは小声で返事をする。

「どっちかだけが受かったらそいつに奢るって約束も忘れるな」

「あぁ…分かってる」

 落ち着かないのか少し間が開く度に話しかけてくるが、それどころではなかった。

 かつてこんなに緊張したことがあっただろうか? 心音は耳障りなくらい高鳴り、そのうち破裂するのではないかと心配にすらなる。汗が額からジワリと流れ出てきたが、シルハは異様な汗を拭うことなくただ手紙を見つめ続けた。

「なぁ…テル、いっせーので開けね?」

 自分から開ける勇気もなく、やっと手紙から視線を外して、テルを上目遣いで見ながら情けない提案をする。

「あ、それいぃね…」

 こちらも根性のないモヤシ野郎のようだ。安心したような笑顔を浮かべて頷いた。
 一回、顔を見合わせてから2人して1回大きく深呼吸。

「「いっせーの!!」」

 男達は声をハモらせながら、ビリっと勢いよく封を切った。

[次へ#]
[戻る]


第3回BLove小説漫画コンテスト開催中
[小説ナビ|小説大賞]
無料HPエムペ!