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星降る夜と紅い月【前半】
真っ赤な月を背に、紅い瞳が彼を射抜いた。

「今宵は、私の暇つぶしになってくれるよな…?シェゾ・ウィグィィ…」


あぁ、災難な夜だ。





『星降る夜と 紅い月』前半



何がどうなったかなど、今のシェゾにはどうでもよかった。腹の痛みも、流れる血も。
とかく、今ある自分以外の気配から逃れようと森の中を走り抜けていた。



時は数刻前から遡る人間の身体とは素晴らしく出来ている。辺りが暗くなると身体は必然的に休息を求め、睡眠を貪る。闇の魔導師である彼、シェゾもまた例外ではなく、休息を求めて自分の住家へと足を急がせていた。本来なら朝からずっと寝ていたかったのだが、いかんせん彼女であるアルルがカーバンクルのカレーの材料を求め、買い物に付き合えというから仕方なく身体を起こし、日中はずっと荷物持ち兼荷物番をしていたのだ。大きすぎるもの(カレーの具材ごときに何故ドラゴンの尻尾が必要なのかを問いたい)は転移魔導を使えばすむのだが、割れ物や柔らかいものはそういかず…仕方なく、仕方なく担ぎあげていた。
そのまままた子供みたいに走り回り、振り回され…夕方になりやっと解放かと思えばカレーを約5人前(彼女の好意なのだろうが嫌がらせかと感じた)を無理矢理平らげ、軽く胃もたれを解消し…夜分遅くになった。
転移魔導を使おうにも吐き気が襲いそれもままならない。結論、なるべく早く歩いて帰ろうということになったのだ。

「…ついてない」

噴水近くのベンチに腰を下ろし、わずかな休憩をとっている間に、不意に帰り際の彼女の唇の感触を確かめるように一度自分の手を唇に当て、自分に喝をいれてから立ち上がり歩みを早めた。

「久しぶりだな、我が半身」
「!?」いきなり鼓膜に響く声にシェゾは立ち止まった。心臓が痛い。そう、ありえない。ありえないのだ。この存在はありえない。ならば、今目の前にいるこいつは…誰だ。

「私を忘れたのか?私の力をあげたというのに…」
「ルーン…ロード…ッ」
「名前を覚えていてくれたか、嬉しいぞ私は」
「なんで、お前…消えたはずじゃ…」
「ふむ…まぁ、遊びにきただけだよ」
「ふざけるな!貴様…っ」

シェゾはルーンロードを睨みながら剣先を向けた。相手は少し目を見開いたがまた余裕のある笑顔を見せた。

「あまり魔導力がないようだが…?最近奪ったのはいつだ?」
「今だ。お前を潰して、奪ってやる…」


胃の中の雑念を振り払い詠唱を始めた。闇の剣に光りが集まりカッと目を見開いた。

「潰れろ…!アレイアード!」

それは、確かに…『当たった』はずだった。
いや、当たっている。
土煙の立ち込める中に人影はある。だが、違う。当てた本人ではない人影だった。

深緑の髪に二本の角。紅い瞳に弧を描く口。そして何より無傷。
見覚えがありすぎる変貌にシェゾは固まった。いや固まる理由はまだある。
腹部が熱い、触れるとそこは…紅。

「やれやれ、私の作った幻影に惑わされるとは…まだまだだな、シェゾ」
「な、んで…」
「ちょっとした悪戯だ」

とても笑顔で、それであって冷たい口調で言い放つ。背筋が凍る。これは危険だとシェゾの本能が警笛を鳴らしていた。ヒーリングを唱えようと、手を腹に当てた瞬間、その腕をサタンは拒絶した。

「なぁ、シェゾ・ウィグィィ…。そんな魔導を使うくらいならば私の相手をしないか?」

これは、危険だ。
空を見る。紅い月。魔族の気が一番立つ時だ。だがまさか、サタンが?
ともあれ、冷静に対処を、気が触れないような言葉を探してシェゾは口を開いた。

「他にも相手がいるんじゃないのか」
「お前にしか出来ないことだ」
「意味がわからない」
「闇の魔導師、半不老不死状態である貴様でなくてはな」

今度は不気味に笑顔をむけた。本格的に、いや…完全に無理だと頭の中は理解した。この解決法は、諦めるしかない。

「何をする気だ。俺は完璧な不老不死じゃないからやりすぎたら死ぬ」
「なに、ちょっとしたゲームだ」
「ゲーム?」
「いまから一時間時間をやる。その間に貴様は逃げろ。一時間後、私は貴様を探す。見つかれば私の自由にさせてもらう。そのかわり、私が探し始めて一時間逃げ切れば、貴様には何もしない。どうだ?いいゲームだろう?」

淡々と告げる内容に、シェゾは頭の中の思考をすべて働かせた。要は逃げ切れば何もされないわけだと納得し、頷くしかない選択肢を選んだ。

「ではいまから一時間ここでまつ。さぁ…」


ゲーム、スタートだ。


その言葉を聞くかいなかで、シェゾはそこから姿を消した。

ながい、ながい、夜の戯れが始まった。





〜なかがき〜
補足ですが、ルーン様の口調が違いますが、サタンが幻影をつかってしゃべるのでサタンの口調なんです。
つか初っ端からなんという処女作品…

11/10


あきゅろす。
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