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割と真面目なおなはし
2





















「おい」


放課後の教室で荷物をしまって教室を出ようとすると後ろから声がかかった。


「なんですか。」

振り返ってみると、さっき米澤に声をかけたと思われる源が不機嫌そうにこちらを見ていた。

「お前が委員長の米澤?」

「はぁ。そうですけど。」


すると源は更に不機嫌な顔になった。
失礼なやつだ。

「俺、お前に学校案内してもらうように言われてんだけど。」



そういえば。

そんなこともあったな。

帰ろうとしていた足を止める。

正直な話、面倒だ。明らかに彼は僕に案内されるのが嫌そうな顔をしているし、僕だってそんな奴を案内なんて進んでしたくないし、相容れ無いのが目に見えている。

僕のような性格は、一部の人間から嫌われる。特に三上を中心とする男女共に目立つ奴らの集まるグループだ。

いつもばか騒ぎして騒いでいる。


格好をしていても、制服を着くずしても、かっこいいだとか、憧れの対象になったりするのだ。
わざわざ関わって波風立たせなくてもいいだろう。

僕は喧嘩が好きなわけじゃないのだ。だけど思ったことは言ってしまうし、それが正しい事だと思っているからあやまるつもりもない。自分の意見をねじ曲げてまで仲良くやりあおうとはおもっていない。ずっとそうやって過ごしてきた。

だけど最近疲れてきたんだ。

面倒なことは、出来るだけないほうがいいと思うようになった。

わかってくれない人もいるのだと思った。そういう人たちとは関わらないようにするのが一番よいのだ。と中学に入ってからの一年間で学んだ。
そして僕は彼がわかってくれない側の人間だろうと僕は察したのだ。

面倒なことを起こさないようにさっさと案内して終わるのが一番だろうと僕は判断した。
明日先生に何か言われるのも嫌だったし。
そんなことを考えながらも僕は、苦手な人にも愛想笑いが出来る処世術を持ち合わせていなかった。

「はい。わかりました。…それじゃあ今から案内しましょうか?」
笑顔までにはいかなくとも、不機嫌丸出しでは流石に相手に失礼だろうと自分なりのポーカーフェイスで問い掛けた。

「あぁ…頼むわ。」

源は不機嫌そうな顔を続けつつも頷いたのだ。



















「―――ここが図書室です。貸し出し期間は1週間で二冊迄。何か理由があれば司書の方に言えば融通がききます。」

「あぁ。」

体育館、音楽室、職員室―――国語準備室、放送室、図書室。


一階から順番に必要最低限のことを述べて説明して回る。こういった事は嫌いじゃない。

だから委員長なんてやっていられるのかもしれないなぁと思いつつも、さっきから眉を寄せて「あぁ」だの「うん」しかいわない転校生にいらだちを隠せない。

言いたいことがあるなら言えば良いのに。

そう僕はいらいらしていたが、まぁ転校初日なんだから彼は彼なりに緊張していたり、初対面の僕に言えないこともあるのかもしれないということで、苛々を押さえ付けていた。


「――ここで一通り校内は回りおわりました。とはいっても一回では覚えられないかもしれませんが、友達にきいてみたりしてください。何か質問はありますか?なければこれで―――」


「なぁ。」

今までむっつりとろくに返事もしなかった転校生がゆっくりと口を開く。

「俺、お前になんかした?」

「はぁ?」



驚いて目を見開いて彼を見つめる僕の顔はさぞかしまぬけだっただろう。


「俺を嫌がってるのみえみえなんだけど。」

なんですかこの転校生は。嫌がっているのがわかっているのならそのまま流してくれればいいのに。
「そんなことありませんよ。」

なにも気付かずにそのまま流れて僕のことなんて忘れてしまえば良いんです。

「俺さぁ…なにもしてねぇのにいきなり嫌われるとか、むかつくんだけど。」

あぁもううるさいな。
気付かないふりくらい出来ないんでしょうか。


プチンと僕の何かが切れるおとがした。


と、その瞬間、フラッシュバックした今朝の出来事。驚いた関根の顔。
危ない危ない。何をしているんだ。

僕は同じ過ちを何度も繰り返すような愚かな人間じゃないんだから。


「嫌いだなんて誰も言ってないですよ?」


我慢、がまん。


「勘違いさせてしまったのならすみません。でも私はそんなつもりじゃ―――」


僕が取り繕っているその時、彼はぼそりと呟いた。

「やっぱむかつく」

「はい?」

今度はいったい何なんだと多少いらだちを隠し切れずに返事をすると、彼は吹っ切れたように大声で言った。

「お前のこと、ちょっとは良い奴かと思ったのにな!噂どおりの頭のおかたい委員長で拍子抜けだな。あ〜はいはい、イーンチョーさんは早く家帰ってがり勉君にでもなっててくださぁ〜い」

頭の中が静かに噴火した。


「…黙ってれば言いたい放題いってくれますね。あぁそうですよ僕は不良なんて大嫌いです。ゲラゲラ下品に場所もわきまえず騒いで服装はだらしないしルールは守らない自己中心的な貴方たちのような人をですね!分かったらさっさと帰ってください。折角僕が角が立たないように接してたのに気付かないふりが出来ないなんて空気読めないにも程がありますね!」
あぁ…爆発してしまった。でも後悔はない。こんな奴にどうおもわれたって構わなかった。どうせコイツだって僕の言うことなんてわからないだろう。だってそういう側の人間だろう。

三上のグループの奴はそんな奴ばかりだということぐらいわかっている。ギャルと不良みたいなのがたくさんいて、彼も今日そのグループに馴染んでいたんだし。

どうせびびるか引くか嘲うか首を傾げて立ち去ってゆくに違いない。そう、思っていたのに


「てめぇは結局外見でしか判断出来ない偏見の塊野郎なんだろうがよ。相手のこと良く見ないまま決め付けて。そういう奴俺、超嫌い。」

彼の目は未だ僕の目を真っ直ぐにとらえたままだった。

だけどその目は、明らかにさっきよりも怒りでギラギラしていた。

「中身まで見てほしければそれなりの格好をすればいいじゃないですか。中を覗いてみる気にもならないような格好をしている貴方たちが変われば良いんでしょう?自分はすき勝手な格好をしておいて誰も分かってくれないなんて甘ったれた考え方、大嫌いですね。」

普通を装うのはもうやめて、苛立ちのオーラを隠さずに言い放った。

「甘ったれてんのはそっちの方なんじゃねぇの?相手をよく見ないまま外見とかで自分の意見をわかってくれなさそうな人とわかってくれなさそうな人を決め付けて、自分の意見を受け入れてくれる人に甘えて自分は正しいんだと思い上がっちゃって?その他の意見は不良だからだの馬鹿だからだの理由をつけて遮断して、結局自分は間違っちゃいないって?ばっかじゃねぇの?」


「なっ」

なんで初対面の貴方にそこまで言われなきゃならないんですか!

むかついて声をあげようとしたが彼の勢いは止まらない。

「皆から聞いたぜ?お前の噂。本人と話してみるまでは信用するつもり無かったけどな。やっぱり噂は正しかったみたいだなぁ?『不良嫌いで不良とみなされた人の話はきかない』『クラスの空気を壊す天才』『ノリが悪い、冗談が通じない、頭が固い』『自己中で決め付けが激しい』『わからないならいいと言って逃亡する』『関根が可哀想』『自分以外の意見は認め――」



「もう良いです!わかってます!」

知っている。どれも聞き覚えのある言葉だ。
三上のグループは周りを気にせずよく騒いでいるからこういうことを言っているのが聞こえてくる。
でも僕は気にしない。

だってそれは僕が彼らにとって不都合なことを言っているから、自分達を正当化するために僕の悪口を言って僕が間違っているかのようにしているんだ。
そんな奴の言うことなんて聞かなくていいだろう。

あれ?

その時、ふと頭にいらない考えが浮かんだ。

まさか僕は彼らと同じ事をしていないか?


そんな、まさか。

今、そんことを認めるわけには行かないんだ。

余計な考えを振り払おうとしたがそのもやもやは残ったままだ。

だけど、このまま転校生に言い負かされるのは癪だった。

「僕だって聞いたことありますから!僕はわかってほしいなんて思ってないですからどうでもいいですよ!」

「嘘だな、すっげぇ気になってるくせに。わかって欲しいのにわかってくれない。だけどソレを認めたくなくて『言葉の通じない奴らだ』ってオレらのこと見下してんだろ?」

「ちがいます!」

「顔にでてんだよ」

怒りがふつふつと沸き起こっていく。彼が僕の何を知っているというんですか!

「なんで…なんで初対面の貴方にここまで言われなくちゃならないんですか!僕のこと全然知らないくせにすき勝って言わないでください!」


「おれのことだってよくしらないよなぁ?」

確かに僕も相手の事を知らないくせに言いすぎてしまったかもしれない。

「でも残念ながら僕はあなたを知りたいとは少しも思いませんね。」
そう言い放つと彼は顔を歪めたまま応える。

「奇遇だな。俺もだ。




お前はは俺のと友達を馬鹿にしたからな。」

彼の友達…あぁ今日知り合った三上のグループの不良とギャルみたいな奴らですか。
今日知り合ったばかりなのにもう友達なんて、おめでたい頭の方はいいですね。

「貴方は僕のプライドを傷つけました」




「「あなた/お前には絶対負けねぇから/負けませんから」」

お互い一瞬睨み合ったあと、同時にふいっと顔を反らした。


このままおわらせるものか。僕のプライドを傷つけた罪は重いんです。

そのまま立ち去ろうとしたが玄関に向かう道は2人とも同じだった。

「ついてこないでくださいよ」

「俺も玄関行くんだよ。ちょっと考えればわかんだろーがばーか。」

「なんですって?!」








結局、僕等は帰り道の方向も同じで、喧嘩しながら自転車でどちらが速いか競って帰っていきました。













これが私と貴方の最悪の出会いでした。

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あきゅろす。
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