一気にテンション下がった。
さっきまでぜんざいさんのコメント見て歓喜してテンション上がってたのに今ではこれですわ。
表情筋も結局起動することのないまま完全に死んでしもた。
新曲を投稿するまであのままやったら確実にキャプション欄に良いこと書ける筈やったのに。
さて、何故でしょう。
隣から騒音が聞こえてくる。
ボールが壁にぶつかる音とか「うわっ」「ぐふあっ」とかめっちゃ煩い。
音は絶えることなく続く。
煩過ぎて動画の最終チェックできんやないか。
今日中に投稿できひんかったらどないしてくれるんかな。
「煩いわ、バカ兄ちゃん」
抗議しようと自室を出て隣の部屋のドアをがらりと開け
「バカ兄ちゃんだと!?……あ」
た。
バカ兄ちゃんの部屋のドアを開けたら目の前が一瞬にして真っ白に染まった。
あれ?バカ兄ちゃんの部屋ってこんなに真っ白やったっけ。
「おいおま…………」
……んな訳ねーよ。めっちゃ顔面痛いわ。
あたしの足元でテンテン、と音が聞こえたような気がした。だが今のあたしには関係ない。
あたしがドアを開けたと同時にバカが使ってたボールがあたしの顔面を直撃したみたいや。
そのボールはバレーボール。
数年前に突然バカがバレーボールがやりたいなんて言い出した。
ルールとかやり方とか教えたんやけど全然上達せえへんかったんはよく覚えてるわ。
このバカ、運動神経の塊みたいな奴やのに上手くならん。どういうことやねん。
お世辞でもボールの扱い方が上手いとは言えんバカはレシーブの練習してて、いつものように失敗したところにあたしが部屋に入ってきた、って感じやな。
目の前のバカはさっきまで顔を青ざめさせてたけど急に顔が死んだ。目とかめっちゃ死んでて怖いわ。
あたしの顔がいつも以上に無表情で怒ってると思って悟りでも開いたんやろか。
仕方あれへんやん。さっきからあんた煩かったし。
……怒ってる訳やないんやけどね。
「いや……その、ごめん」
「…………」
「えっとあの、その……本当ごめん。顔に……ボール……」
「…………もうええわ」
「……え?」
「ボールの音とか声とか煩いから注意しに来ただけやし。まあ顔面ストライクはないと思ったけど」
バカ兄ちゃんに満面の笑みを送る。目は死んでると思うけど。
それに気づかないでバカ兄ちゃんは馬鹿みたいに顔を輝かせた。
「ふおおおおぉぉぉ……!許してくれんの!?っしゃ!!
じゃあ久しぶりに日和もバレーボールやろうぜ!」
「あんたやっぱバカやな。馬と鹿って書いて馬鹿」
「なにをぉ!?」
「煩くせんといてって注意しに来たのに、あたし自身が煩くしてどうするねん」
「あ、そっか」
「馬鹿過ぎる。……まあそういうところ、あたしは好きやけど」
「え、何か言ったか?」
「言ってへん。
馬鹿すぎて馬鹿の神様を召喚して何か囁かれたんやないの?」
「え、まじ!?俺すげえ!」
褒めてへんわ、と内心突っ込んどくよ。
バカ兄ちゃんを褒めちぎったら面倒なことに調子乗りよる。
かと言って否定しても面倒なことになる。
つまりこいつは何をしても面倒な行動を取る。
面倒が大きくならんように黙っとくのが1番良いんよ。
さてと、抗議は一応したしこのバカにはもう用はない。
自分の部屋に戻ろうと踵を返すとバカが声をかけてきた。
「高校のバレーボールの大会の試合に出られたら、日和に見に来て欲しいんだけど!」
「……いきなりどうしたん」
「ほら中学最後の試合、日和は見に来れなかっただろ。だから見に来て欲しくて!」
「……見に行かんこともないけど」
「絶対だからな!」
「ていうかあんた試合に出れるんか。補欠やったら見に行かんからな」
はっ、と鼻で笑って今度こそ自分の部屋に戻る。
「絶対上手くなってやるからな!」という叫び声が聞こえたような聞こえなかったような。
……ああ、そうそう。
そういえば最初にテンション下がったって言いましたよね。
Q,テンション下がったのは何故でしょう?
っていう感じの。答えは、
A,あたしの双子の兄、日向翔陽が学校からこの家に帰って来たからです。
普段はバカ兄ちゃんとかバカって呼んでへんのですよ。翔兄ちゃんって呼んでます。
別にあいつが嫌いな訳やあれへんのです。
ああいうバカを見てると何か馬鹿にしたくなるだけ。
……そういやなんで馬鹿にしたくなるんやろか。まあええわ。
……あいつのこと全然上達せえへんとか言ったけど、ちゃんと素質はあるんや。
翔兄ちゃんの将来を楽しみにしてる自分がいる。
その時までこっそり傍観でもしとこうかな。
学校は違うし内部事情までは見いひんけど。
……兄の成長を見守る妹の構図ってどんなんやねん。カオスやわ。
部屋の時計に目をやれば針はもう9を指していた。
……さっさと最終調整終わらせて新曲投稿するか。