2 かけられた声に反応して、俯いていた顔を上げると。 家の前に、マフラーに顔を埋めて軒下に座り込んでいる銀時が、いた。 「銀時!」 駆け寄り、その冷えた体に抱きつく。 「おわっ、何だよ急にッ」 「すまなかった‥‥その、クリスマスというものが恋人達にとっては一大イベントだというのをさっきまで知らなかったのだ。それに‥‥約束もすっかり忘れていたし」 「全くだよなあ、こっちはずっと楽しみにしてたっつうのにな」 「本当にすまぬ‥‥‥おまけにこんなに冷たくなって。中に入っておればよかったのに」 抱きしめても熱は伝わらず、長い時間ここで待っていただろうことが伺える。 自分の不甲斐なさに視界が滲む。 「ま、いいけど?そんなお前好きになったん俺だし?ちゃあんと『恋人』って自覚あること分かったしな」 「あ、当たり前だ。恋人で無かったらあんなこと何度もするわけがないだろう」 「あんなことってどんなこと?」 「なッッ、お、お前って奴は!そんなことくらい察しろ!!」 「えー、銀さんあったま悪いからわかんないよ。ねぇ、小太郎、どんなこと?いわないとこの腕離さないよ?二人で凍死しちゃうよ?」 抱きしめ返される腕は心地好いがこのまま外にいては本当に風邪を引く。 それに。 そんなに甘い声でいうのは反則だ。 「それは、その、アレだ‥‥セ、セック‥ハーークション!!!」 意を決して言おうと思ったのにとんだ失敗。 「あーあ、いいところだったのになあ。ま、これ以上ここにいるのは寒いし、中、入るか。しかしこんななるまでどこうろついてたんだよ」 頭や肩に積もってる雪を振り払いながら、呆れた声で言われると何だか悲しい。 「お前を捜してたのだ」 「え?俺?」 「当たり前だ。今夜はクリスマス・イブなのだからな」 偉そうに言ってやった。 だって恋人と過ごす日ならばお前といなければダメだろう? お前もそう思ったから俺と約束したのだろう? ‥‥‥忘れてたけど。 「そおか。ま、とりあえずはあったまろうぜ」 「ん‥‥‥そうだな」 玄関の引き戸をガラリと開けて、ふと手に持ってるものに気づく。 「あーッッ!!」 「んだよ、びっくりするな。どうした」 「店長に‥‥恋人と食べたらよいとケーキを貰ったのを忘れていた」 箱を握り締めたまま、走ったり抱きついたりしていたので隙間から覗いても、生クリームがグシャッとしているのがわかる。 「大丈夫大丈夫、このくらい。俺がしたいことにはこのくらいの方が使い易いし」 「銀時、貴様まさかッ」 「そう。今日はケーキプレイにしようね」 「またそのようなことを。食べ物をそんな風に扱うな」 「ダーメ。約束忘れた罰に今日は付き合って貰うかんな」 両頬を挟まれそう言われれば思わず想像してしまい、顔が火照る。 「そ、それでは俺が食べられないだろうッ」 慌てて苦し紛れにそう言うと。 「んじゃさ、俺のココに塗って食べるっつうのはど?」 あらぬ箇所を指差し、ニヤリと銀時が笑う。 「そんなこと、絶対しないからな!」 そういうと楽しそうに笑われた。 そんなことなんかしたら、甘いものを口にするたびに思い出すではないか。 「あー、今やーらしいこと考えただろう。顔がやらしくなってんぞ」 「ぇえッ」 「図星だな」 ますます顔が熱くなる。 「小太郎」 「今度はなんだ」 「メリークリスマス」 「めりぃくりすます」 言い慣れない言葉がくすぐったい。 恋人との初めてのクリスマスは、甘い香りたっぷりの想い出が出来る気がした。 終 20091224 −−−−−−−−−−−−−−− 久しぶりに書いた銀桂!! ちょっと楽しかったです。 [*前へ] [戻る] |