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ドカドカと廊下を歩き、目指す部屋へと向かう。
襖を開けると、頭に手ぬぐいをのせ布団に横たわっている姿が見えた。
「銀時?」
「ああ。調子はどうなんだ」
「すまぬ。だいぶましにはなってきた。‥‥‥今日は」
「五人、死んだ」
そう告げると、端正な顔が少し寂しげに歪む。
今日はヅラは高熱が出て出陣はしなかった。疲れが溜まってか、はたまた神経的なものなのか。行くというのを皆で足手まといだと止め、ここに置いていった。
「毎日、減っていくばかりだな」
「‥‥それでも今日は少ないほうだ。あいつらときたら次から次へと増えやがるからな」
そういって笑ってはみるが、顔が強張っているのが自分でもわかる。
情勢は明らかに悪い。
いつ終わるのか、いつ自分たちは命を散らすのかという思いにとり憑かれた状況下で、皆心が病んできていた。
斬って斬って、生き物と意識せずにどれだけの数を斬り棄てても先が見えない。
ただ、自分の手がより多くの血に染まるだけ。
−−−仲間がどんどん減ってゆくだけ。
「銀時‥‥‥」
ヅラが手を伸ばすので、傍らに座りその手を取ろうとする。
が、スルリとかわされ、頭をぽふぽふと撫でられる。
「んだよ。俺はガキじゃねーんだぞ」
「銀時」
熱で潤んだ目して見んじゃねぇよ。
変な気になるだろうが。
こちとら、戦の後で気が高ぶってるんだっつぅの。
「んな目で俺を見ないでくれる?襲っちまうよ?」
ちゃかして言ったつもりなのに。
「そうしたいならすればいい」
「ちょ、おま、自分のいってっことわかってる?理解してる?」
了承の言葉が出るなんて思っちゃいなかった。
「どうせ明日はどうなるとも知れぬ身。それでお前を慰められるのなら、それもまた一興だとは思わんか」
「‥‥‥ハァ。お前ね、んなすぐ死んじまうようなこというなっつうの。生きるために戦ってんじゃねぇの?明日のために戦ってんじゃねぇのかよ」
つい、強い語調で言ってしまう。
高杉が‥‥高杉が自らの兵を率いて分離してから、どうにもこいつは投げやりになってきている気がする。
「そうであったな。熱で少し弱気になってしまったようだ」
「慰めるとかバカなこというな。お前に慰められる程ほっそい神経してないんですぅ」
「それもそうだな‥‥‥俺の勝手な口実だ。いや、汗でもかけば熱の冷めるのも早いかと思ってな。‥‥‥なあ、銀時。そうは思わんか」
そういって見上げてくる眼はやけに煽情的で。
潤んだ瞳。
体温の上がっている手。
汗で額に張り付いた髪の毛。
ゴクリ、と喉が動いた。
「‥‥‥そういうことなら協力してやってもいいぜ。後から文句いうんじゃねぇぞ」
それが理由だとは思わなかったが、のばされた手をとるのは自分で在りたいと思った。
せめて、一時の快楽を−−−。
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