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熱帯注意報



なんだろう、このタイミング。
こっちは仕事なんだよ。
そーゆうのわかってるわけ?
このくそ暑い中、あんパンかじりながら仕事だしさ、風呂も入ってないしボサボサだしきっと変な臭いとかするんじゃないかって思うしさ、全然全然………あ゛ーっもう。
一人で仕事してんだったらこんなことで悩んだりしないんだって。
誰かくるなんてのは想定外だっての!

ぐしゃぐしゃと少し固くなった髪を掻き回すと、涼しい声が部屋に響いた。


「退殿」


仄かにスパイシーな香りを身に纏わせて、近付く男に俺は気後れして後退りする。

今の俺にこの男の横に並べれるはずがどうしてあるもんか。

いや、もとからこの派手な様相の男、河上万斉に自分のような地味だけがが売りの俺が似合うはずもないんだけれど。

それでも。

それでもせめて、身綺麗なときにあいたいっていうのはさ、せめてもの砦っていうかただの自分の中でのルールみたいなもんだけどそういう気持ちをもってたのに。


「何?何の用?アンタさあ、ここどこかわかってんの?張り込みしてる部屋なんだよ?いつウチの隊士がくるともわかんないし副長だって様子見にきたりすんのに、何考えてんだよ」

「それは拙者の心配をしてくれているということでござるか?」


身長差を合わせるように顔を覗き込んで嬉しそうに言うもんだから、つい顔に熱が上がる。


「べ、別にっ、お、おれだって困るし!こんなとこにこられて、いろいろ汚いし」

「ふむ。確かに」


ゴミも散らかし放題の部屋を見渡しそう言い渡される。


「だ、だろっ、きたねーし、臭いし、危険だし。は、早くどっか行ってよ」


見られている自分も汚いのだと認識されているかと思うとなんだか恥ずかしくていてもたってもいられない。
もてあます雰囲気にその場の時間稼ぎで、散らかしてあるコンビニ袋にゴミをまとめて詰め込む。


「どんな場所であろうと状況であろうと、それでも退殿にあいたかったと言ったら?」

「なっ、なに、」

「今日は七夕。普段あえない者達が逢瀬を許される日でござる。そう思うとなんだか無性に退殿にあいたくなった」


全身が痺れたかと思った。
んな、七夕とか全然なんにも考えてなかったし。
その前に空なんて見上げてもいないし。
ていうか、よくそんな恥ずかしいこと言えるのかなこの人……似合うのが悔しいけど。
それを俺が貰ってるってのが付き合い始めた今でも信じられない。


「真選組はんなの許してくれるわけないだろ。そ、それに、俺達はその……一年に一回じゃない……の?」


なんだろう。
今の自分には万斉は眩しくて思わず最後が疑問形になってしまった。


「ふむ。確かに。では拙者、退殿の顔も見れたことだし邪魔をせぬようこれにて退散するでござるか」

「あのっ」


くるりと身を翻した万斉の、夏だというのに裾の長い黒いコートの端を思わず掴む。


「えっと、邪魔、とはいってないょ」


なんだか恥ずかしい姿を見られて嫌な自分と、まだ一緒にいたい自分と、ぐちゃぐちゃになってやっとそれだけを口に出す。


と、

柔らかく包まれるように抱きしめられた。
よりいっそう万斉の香りを感じる。


「退殿は優しいでござるな。それに汚くもないし綺麗。ますます知りたくなる」

「いや、今、ほんと風呂とか入ってないから」


それを思い出し、身体を離そうとするとますます強く腕がまわる。


「ちょ、」

「拙者は気にせぬが退殿が気になるなら仕事明け、拙者が磨くとしよう。磨けばますます輝くから外に出したくなくなるかもでござるが」

「ばっか」


万斉なら俺の仕事が終わった時くらい簡単に調べられるだろう。
そして俺は多分それに合わせて休みをとることになる。

それで、それで。

彦星と織姫に負けないくらいの一日を過ごせるだろう。


「よいでござるか」

「……いいよ。やだっていっても連れ去られそうだし」

「そのとおり」


寄せられる唇は甘く暑く、一足先に熱帯の夜の空気を思わせる。



暑い夏は、まだまだこれから。





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龍様、いつもありがとうございます。山崎がいまだに掴めてないですが貰っていただけたら幸いです☆
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あきゅろす。
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