6ナカヘ リンゴローン 「だから間違いだと‥」 しつこく呼び鈴を鳴らした俺にまた迷惑そうな顔を出したところでドアを押し入り無理やりにと部屋の中へと入る。 「あんた、カワカミバンサイさんだろ?」 「‥‥‥如何にも」 まだ訝しげにしながらも怒るような態度もせず、面倒くさそうに上から見下ろしてくる。 このカワカミさんとやら‥‥‥俺よりかなり背が高くて、見上げるような姿勢になるのが気に食わない。 「んじゃあ依頼先はアンタだよ。自分で頼んでないから違うと思っても他のやつが頼んだとか思わないかな?思いつかない?一応、俺は『武市』っていううちの客の紹介で来たんだけど」 俺はドアの近くに突っ立ったままのカワカミさんをそこに置き去りに距離をとり、部屋の窓際の方にスタスタと歩み寄り外の夜景を見下ろす。有名ホテルの高層階ともなれば見下ろす夜の街は昼間の灰色よりはずっと綺麗に見える。 普段はこんな態度を出すのは、慣れきった常連の客相手にくらいだが今日はもう最初から態度に出してしまった。今更取り繕うのもやめた。 それに強引にでもきっちり仕事しねぇと何言われるかわかんねえし。 相手は間違いと言っているがよっぽどじゃないと“GARDEN”では有り得ない。 バックにはそりゃ危ないのが関わっているらしいが、そのくらいの質を保つくらいでないと金持ちらが危ない橋を渡るなどあるわけない。 『お前たちはさしずめ秘密の花園の花だ。せいぜい甘い蜜を吸わせてやるんだな』 そう、最初に店に入った時に言われた。 もう随分と前のことなのに、ふとそんな言葉が甦ってきた。 それもこれも、みんな目の前にいる男のせいだ。 簡単に仕事に入らせてくれない男に八つ当たり気味にキツイ視線を向ける。 「武市‥‥‥ああ、そういえばこの間何やら女の趣味やら何やら聞いてきたどこぞのプロダクションの社長の名がそのような名前だったか」 ようやく心当たりがありそうな言葉を紡いだ男の正面に改めて向き直る。 「そう、それだよそれ、多分な」 「ああ、なるほど」 ようやく思い当ったようで、サングラスを外して眼のあたりを軽く揉んで解すその姿に正直すごく目を引きつけられた。 ジジイどころじゃねえな、俺と変わらねえか?しかも良く見なくともいい男。 でも、なんだかこうして部屋に無理やり押し入られてもボーッっとしている様子がいささか心配にはなるが。 顔はそこらの芸能人にも負けないくらいに整っているというのに、髪の毛はボサボサだし黒い半袖の少しヨレたTシャツに下は黒のジャージのラフな格好。 極めつけはその顔色の悪さ。 サングラスをかけていたときはカバーできていたが、いまではその隠すものもなくなったその顔は白いというより青白い。 そして何より眼の下についた色濃いクマ。 なんか、えらいくたびれた‥‥‥いや、疲れた感じだな。 そう思ったから思わず言った。 「そんなんで俺の相手出来んの」 思わず口をついて言葉に出してしまった。 男は下を向いていた顔を上げた。 「えッ、ちょ、カワカミさん?!」 顔を上げ‥‥‥そして、そのまま前のめりになって倒れてきた。 2011/01/26 [*前へ] [戻る] |