桂HAPPY BIRTHDAY☆2010
『桂さん、玄関にこんなものが置いてありました』
エリザベスに手渡されたのは、青地に桔梗の花と蝶の柄が描かれている鮮やかなちりめん生地の、小さな巾着袋。
「これは?」
何だろうと開けてみると、コロコロとビー玉のようなかわいらしい飴玉がいくつも入っている。
‥‥‥ああ。
いつだったか似たようなのを貰った覚えがあるな。
『怪しいですよ!毒入りかも!!』
覗きこんでいたエリザベスが警戒心バリバリの様子で訴えて来る。
「大丈夫だエリザベス。こんなものを置いてく奴には心当たりがあるからな」
『ならいいですが』
「ああ、心配してくれてありがとう」
『最近怪しい奴がウロウロとしてると聞いたもので気になって』
「そうだったのか」
『でも桂さんがそういうなら安心です』
「さて、それでは俺は少しバイトにいってくるから留守はたのんだぞ」
『今日はみんなで桂さんの誕生日会やりますから楽しみにしてて下さいね』
そう送り出してくれたエリザベスにあたたかい気持ちになりながら街を歩く。
袂から先程の袋を出し、一粒取って口に入れると、みずみずしい果実の風味と甘い柔らかな味が口内に広がる。
「甘い‥‥‥な」
前にこれを貰ったのは随分前のことだ。
贈り主はきっと一緒だろう。せめて顔くらい出すもんだ。
それでも、やはり嬉しかった。
多分、あの頃よりもっと。
*******
「やるよ」
柱に背を預け疲れた身体を投げ出していると、ポンと脚の上に何かを投げつけられた。
見上げると帰って来たばかりなのか疲れた様子の高杉が俺を見下ろしていた。
投げられたものを見れば、小さな巾着。
「なんだいきなり」
「いいから貰っとけ。ていうか今すぐ開けろ」
有無をも言わせない迫力を出しているものだからとりあえず袋を開いて見ると、中には色とりどりの丸い飴玉が入っていた。
「どうしたのだ」
「別に。」
「しかし飴玉なら俺にじゃなく銀時あたりにやったらいいだろう」
「食べ切れなかったら捨ててもいいがとりあえずそれはお前が貰っとけ。銀時なんかにやんじゃねぇぞ」
やけに念押ししてくる高杉に頭を傾げる。
高杉が俺に何かをよこすこと自体珍しいというのに。
おまけにどこで手に入れたかはわからないが戦場では珍しい甘味。
「しかし俺は甘いものなど「いいから食え」
「あ、ああ‥‥‥いますぐ?」
無言で睨んでくる鋭い眼光に後押しされるように一粒口に入れた。
広がる甘い優しい味。
そういえば松陽先生もたまに勉強の後に飴玉をくれたことがあったな。
『疲れがとれますよ』っていっていた。
あの時はわからなかったが今ならわかる。目を閉じ飴玉をなめていると、少しずつ戦に疲れた心が癒されていくようだった。
「たまには、甘いものもいいものだな」
「だろ。‥‥‥お前には必要みてぇだしな、俺からの祝いだ」
祝い?
なんのだ?‥‥‥‥あ。
思い当たって高杉を振り返ると、もう廊下の角を曲がるところだった。
自分でさえ忘れていた誕生日をまさか高杉が覚えているなんて思わなくて。
貰った袋を見つめながら胸の奥が熱くなった。
******
「全く、高杉の奴。来たなら顔を出せばいいのに」
ぶつくさ独り言を言いながら歩いていると目の前に人影が。
?
「よう」
「たっ‥‥」
高杉、と言いそうになって慌てて声を潜める。
「何をしている?」
高杉は無言でニヤリと笑った後、狭い路地の方へと俺の手を引っ張っていき、壁際へと追い詰める。
「何してるって?お前さんに会いに来たに決まっているだろう?」
「‥‥‥よく言う。どうせ何かのついでだろ」
「まあ、そんなところだがな」
「やっぱり」
「だけどなぁ、ちゃんと覚えていただろう」
思いがけず優しい顔なんかするものだからドキリとする。
「‥‥‥置いていっただけだろうと思っていた」
「ククッ、それであんな難しい顔して歩いてたってのか?存外、お前は俺のこと好きらしいな」
「冗談ではない。誰が貴様なんか」
「そうかい。せっかくお前の為に江戸に来たってのになあ。‥‥‥小太郎、どうしたい」
「どうしたいといわれても俺はこれからバイトに」
「それは俺よりも大事なコトか?」
間近で瞳を合わせてジッと見つめられれば折れるのはいつも俺のほうだ。
今回も、やっぱり負ける。
「わかったわかった。高杉がそこまでいうならしょうがない。お前に付き合ってやろう」
真面目に溜息付きで言ってやったのに何故だか笑われた。しかもあの高杉が爆笑ときた。
‥‥‥そんなに何がおかしいのか。
今日の高杉はなんだか違う。
「しかし何で今更飴玉なのだ」
「あ?たまにはいいじゃねぇか。お前と甘い時間てのもな」
ギュッとその力強い腕に抱きしめられた。
気まぐれでわがままな男。
なのに。
「小太郎、行くぞ」
手を出されれば、取ってしまう自分がいる。
ああ、今日は良い一日になりそうだ。
20100626
→あとがき
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