3イタミ
カンカンカン、と音を立てて鉄で出来たシンプルな造りの階段を早足で上る。
決していい造りとは言えない古びたボロアパート。それでも風呂付きで二部屋、駅からも近く便利な場所にあるため家賃はそこそこ。
2階の端っこが俺の家。
はやる気持ちを抑えながら鍵を開け、ボロアパートにしては少し頑丈な重いドアを開ける。いや、古いからこそ昔の造りでがっしりとして壁も厚いとか言ってたな。コンクリートが冬には冷たいけど。
ドアを開けると脱ぎ散らかしてある見慣れた靴が。
「銀時」
部屋と玄関を仕切る襖を開けて、テレビの前に寝そべってる男に声を掛ける。
「あー、お帰り『シキ』‥‥だっけ?」
「その名前で呼ぶのやめろ。お前に呼ばれっと気持ち悪ィ」
「んだよ。俺がつけた名前でしょうが。もう呼ばれ慣れただろ?」
にこやかに笑いながらさらりとそんなことを言う。
‥‥‥なんか機嫌悪い。
こんな時の銀時は意地が悪くて嫌だ。
「そりゃあそうだけど‥‥なんか、お前に呼ばれるのは嫌だ」
「そお?いいじゃん。『しんすけ・きれい』で一文字ずつ取ってシキ」
「だから、家でまで呼ばれたくないって」
俺はちょっと不機嫌そうな顔を出してしまっていたのかもしれない。
だって銀時の前では普段の俺でいたかったから。
「冗談だよ、晋助。んな怒んなって」
「別に怒ってなんか‥‥‥んっ、ぎっ‥」
引き寄せられて口を塞がれる。後頭部をがっしりと支えられ、離すことも出来ない。僅かな隙間から必死に酸素を取り込みながらも苦しさに朦朧としたころ。
いつの間にか銀時が俺の上に乗っかって器用にあちこちと肌がさらけ出されていることに気付く。
「な、ご飯は‥‥」
いきなりのキスに頭がくらくらしながらとりあえずの言葉。
実際は止まって欲しいなんてこれっぽっちも思っちゃいなかったけど。
「ご飯より欲しいもんがあんじゃないの」
寛げられた下部を下着の上から指でなぞられる。そこにある完全にではないけども主張しているモノが、刺激でびくりと弾みさらに硬度を増す。
「わかってんなら、しろよ」
「りょーかい」
上のシャツを脱がされ、下も全て剥ぎ取られる。首に、胸の飾りに、次々と湿った刺激を与えられる。
「やーらし。なに、すぐこんなんにして。どんだけやらしい身体なの、お前。‥‥‥客も喜ぶでしょ」
クスクスと笑いながら握り込まれたものはもう堪えきれない液でベトベトで。先をグリグリと刺激されれば声が余計に出てしまう。
「んあっ、それ、やあっ‥」
「はっ、いやじゃなくてイイだろ‥‥‥どうせさっきまでヤッてたんだったらんな慣らさなくてもいいよな。もう入れっぞ」
軽く指を後ろに差し入れした後、馬鹿にしたようにそういった。
そうさ。
それが俺の仕事だもんよ。
でもな、俺にその仕事させたのはお前だよなあ、銀時。
悔しいのか悲しいのか。わけわかんねぇ苦しさも、早く欲望の波にのまれて全てを忘れたくて。俺は銀時の身体に脚を絡ませ引き寄せる。
「早くしろって?それともそれ、新しい甘え技か?」
裸の俺。
着崩れもしていない銀時。
胸が痛い。
銀時は俺を抱くときいつも酷い言葉を浴びせる。
何時からだろう、こうなったのは。
多分、俺が悪いんだ。
お前の心、歪ませてごめんな。
だから‥‥‥俺は何も言わない。
ごめんな。
ふと見ると銀時の動きが止まってる。
「ん‥‥どした‥‥」
「あー‥‥‥今日、俺ゴム持ってねぇわ。お前持ってる?」
「いや、ない」
「ったく、そんぐらい用意しとけよなあ。仕事でも使ってんだろ?」
はぁ、と溜息を付いて頭をガシガシと掻いている。
確かに仕事道具の一つだけど。それを銀時から言われるとなんだかギュッと胃が不快感を感じる。
「別に‥‥‥たまには付けなくてもいーだろ。続きしたいし。銀時もだろ」
そう言うと冷たい瞳で冷たい口調で言われた。
「やだね。どこの誰が突っ込んだかわかんねぇとこに生でなんて入れれるわけねぇだろ、汚い」
ああ、そっか。
そうだよな。
俺、汚いもんな。
「そ‥‥だな、」
「あー、なんか俺やる気なくなっちった。気分転換に酒でも買ってくるわ。お前待ってる間にビール全部飲んじまったし。金どこ?」
怠そうにいう銀時に、なんとか自分を叱咤して財布の在りかを教える。
「んじゃちょっくら行ってくるな。ソレ、帰って来るまでに自分で何とかしとけよ」
バタンとドアが閉まってからのろのろと起き上がり風呂場に向かった。
処理するまでもなくすっかり大人しくなったソレも、後ろも、身体全部。
石鹸塗れになって洗いまくった。
だって俺は汚いから。
そうなんだろ、銀時。
「はは‥‥‥なんかイテェ‥‥‥イテェよ」
涙なんか出ない。
ただ、胸に棘が刺さったかのようにジクジクとした痛みはとれなかった。
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