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望んでも叶わなかった今


結局。

肝心なことは言い出せないまんま時間だけが過ぎて行く。
高杉はいつもと変わらず‥‥いや、毒が取れたような雰囲気で。
昔語りをしたりとまるで昔に戻ったような錯覚を覚えた。
河上も余計なことは言わず、ただくっつきすぎじゃないかと思うくらい寄り添ってるから見てるこっちは暑苦しいくらいで。でもどこか必死で見ちゃいられないくらいだった。



「なあ、桜見にいかねぇか」


本当に唐突に高杉がそんなことを言い出した。

「桜?ああ‥‥あれか」


ここいらで桜といやあ俺達にとっちゃあの一本の桜だろうよ。


「高杉、多分行ってももう葉桜しかみれないぞ」

「あれとはなんでござるか」


話に入り込めない河上が聞いてきた。まあ、コイツは里が別だし知るはずもない。


「昔、よく見に行ったとこがあんだよ。一本だけ他からは見つけ難いとこにあってな。他の奴らに邪魔されないとこ」


桜の時期になるとよく行ったっけなそういやあ高杉はあそこが気に入りだった。やなことがあるといつもいたような気がする。
先生が亡くなったあの日も‥‥‥。


「そうでござったか。拙者、晋助が行きたいところならばどこでもお供するでござるよ」

「んじゃ決まりな!」

「しかし‥‥」

「ヅラは黙ってついてくりゃいーんだよ。行ってみねぇとわかんねぇだろ。俺は咲いてる気がすんけどな」


なんかよくわかんねぇうちに結局行くことになった。
途中酒屋でツマミと酒を買ってもうすっかり花見気分だ。ガチャガチャと袋下げながらあの場所へと先行く高杉の後を皆でついていった。

ああ、もうすぐだ。
あの坂を下ると見える。だがとっくに花の季節なんざ終わってるはずだってのに高杉は随分と自信ありげな足取りだ。


「‥‥‥咲いてんな」


目の前に広がる白に近い薄いピンクの花を満開に付けた樹は、今を盛りとばかりに咲いていた。


「だからいっただろうがよ?」


悪戯が成功した子供のようにニヤリと笑って、木の根元に高杉が腰を降ろした。


「さ。飲むぞ」


嬉しそうな高杉に合わせるように俺らも円を描く形で腰を降ろした。
誰も、高杉のことをそれ以上問わず話さず

ただ、今を。

もう二度と酒を酌み交わすことがないだろうと思ってた相手と今の状況楽しんでいた。




「おい、酒は」


高杉が自分の周りにある空の瓶を掲げて聞いてきた。俺は自分の側にあった酒瓶を覗き見るが、こっちもからっぽ。


「こっちもねぇよ。ったく誰かさんが飲むのはえーんだよ」

「誰だそりゃ。ヅラ、お前だろ。大人しい顔しといて銀時よりずっとザルだしな」

「人のせいにするな。だいたい一番飲んでるのお前だろう、高杉」

「酒がなきゃ花見になんねぇぞ」


高杉がつまらなさそうに仰向けになってそういうと、俺らの話を聞きながら静かに酒を飲んでいた河上が口を開いた。


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あきゅろす。
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