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綺麗なものは目に滲みる


「ああ、そういえば拙者よい酒を持ってきておるのを忘れていた。晋助好みの酒でござるよ。去年具合が良くなって花見が出来たら一緒に飲もうかととっておい‥‥」


言葉が止まる。

しまったという河上の表情。
顔が少し青ざめている。

ああ、わかるぜ。酒も入りゃあ口も滑る。そらしている現実を自分で突き付けちまった瞬間てなあ嫌なもんだ。
俺もヅラも何か言うタイミングを伺ながらも、静まり返ってしまった。


「そんなにうめぇ酒なのかよ」


口を開いたのは高杉で。


「あ、ああ。古酒なので少々度数はキツイがその分、味が‥‥しかし取りに行くには‥‥‥拙者の宿まで‥‥少々遠い。先程の酒屋で酒を買ってきたほうが早いやもしれぬ。皆で買いにいったほうが」


河上の声は少し震えている。
お前、不安なんだろ。
高杉がどんな存在がわかんねぇから。
俺らだってそうさ。
いつこの魔法みてぇな時間が解けちまうんじゃねぇかって思いながらも少しでもと続けばいいと思っている。
だけどどっかで終わりが来るってことも何となくわかってんだ。


「万斉」


高杉の声は落ち着いていて。
優しい響きで河上の名前を呼ぶ。


「その酒、俺んために用意したんだろうがよ。今、飲まなくていつ飲むっていうんだ。持ってこいよ」


河上の瞳をしっかりと見据えてニヤリと笑った。
どこまでも穏やかに。


「晋助、しかし‥‥」


河上の唇に高杉の人差し指が当てられ言葉が止まる。
高杉はそのまま河上を抱き寄せ、子供をあやすように背中をポンポンと軽く叩いた。


「わかってんよ、お前の考えてることなんてなぁ。‥‥‥‥大丈夫だ。俺ぁどこにも消えたりしねぇよ。お前が美味い酒持って帰ってくるの待ってっから取って来い。‥‥‥いない間に消えたりしねぇ。だから、な」

「晋助‥!拙者、まだ信じたくないでござる。‥‥酒を、あの酒をせめてもと今年は持っていこうと思ったのだが‥‥そうすると、全てを認めないといけない気がして‥‥わかってはいる。しかし‥‥」


河上のサングラスの隙間から静かに零れ落ちるものが見えた。
何だかみちゃいけねぇもんのような気がして、俺は桜を見上げながら手元に残っている酒を煽った。
隣にいるヅラをちらりと見ると、肩を震わせながら俯いていた。長い髪で隠してるつもりだろうが流れるもんが見えてんぞ。

俺も、ダメだな。

月に照らされた桜が白く浮き出て、綺麗過ぎて。

何だか目に滲みる‥‥。


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