前を向いて 目の前にぶつかった白いものは、満開に咲いた桜が沢山ついてる枝。 「餞別だ、銀時。精々テメェの大事なもん護んのに苦労しとけ」 「チッ‥‥‥んな珍しいことすんじゃねぇよ、ったく。‥‥‥‥まあ、せっかくだから貰っといてやっか」 「よくいう」 二人で笑い合った。 こんな雰囲気はどのくらいぶりだ? 「た−か−す−ぎ−!!お前はっ!!桜の枝は折ったらダメだと昔からいっておるではないか!!」 怒ったヅラがいて。 「テメェは真面目すぎんだよ。こんだけ咲いてんだからたいしたことねぇって」 「貴様という奴は‥」 くどくどと説教みてぇのが始まって。なんだかんだしてるうちに河上が戻ってきて。 河上の持ってきた酒は確かに美味く、もうちっと飲みたかったが「これは俺んだ」と一升瓶抱えて高杉が全部飲んでいた。 河上も相当飲まされて酔っ払ってグダグダで後半はなにを喋ってたかも覚えちゃいない。 酔い潰れて寝てたら高杉の声がした。 「俺ぁ、もう行かなきゃなんねぇ。‥‥楽しかったぜ」 そうか。 やっぱり行かなきゃなんねぇのかお前。 悔しさに、涙が零れた。 次の朝。 ズキズキと飲みすぎの頭で起きると、満開だった桜は見事に葉桜状態で。 ただの夢かとも一瞬思ったが、高杉の手折った桜が一枝花を咲かせたままの状態で俺の側に置いてあった。 河上は妙に清々しい顔をしていて。 「拙者のやれることをやる」 と去っていった。 「あーあ、高杉が焚き付けるからやる気だしちゃってまあ‥」 「鬼兵隊の動きが激しくなるやもしれぬな。江戸もまた騒がしくなりそうだ」 「そうだねー、ま、そんなもんだろ。俺らも帰るか」 「そうだな」 またな、高杉。 朧月が見せた夢か幻か。 不思議な力が働いたのか。 お前の分まで生きてやんねぇとな。 前だけ向いて。 自分の帰る場所へと踏み出した。 終 20100425 →あとがき [*前へ][次へ#] [戻る] |