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足音が、静かな廊下に響きパタパタと近づいてくるのがわかる。
俺がいる保健室は校舎の一階、教室とは離れた隅っこにあるから誰かが近付いて来るとすぐ分かる。
無機質な天井を見上げながら早くあの人が来てくれるのをさっきからずっと待っている。
遅ェですよ。もっと早く来いってんだ。
コンコン、ガラガラガラッ
「失礼します!‥‥あ、あれ」
「保険医なら職員室いってまさァ」
閉めきってあるカーテン越しにそう言うと、伺うこともせすに柔らかい布がザッと開いた。
現れたのは、三年Z組鬼の風紀副委員長・土方十四郎。
俺の二つ上の先輩、で、恋人。
のはず。
「土方さん、何しにきたんですかィ」
俺はベッドで布団に入ったままチラリと視線だけ送る。
よっぽど急いでいたのか肩でゼィゼィと息をしている。
息切らすほどに駆け付けてくれたことに内心ホッとするが、そんなことは気取られたくない。
「何しに、て。大丈夫なのか?お前のクラス行ったらバスケットボールが頭に当たったとかで保健室行きとかいわれっし。ったく情けねぇ姿だなぁ総悟」
「んなこと言いにわざわざ走ってきたんですかィ。死ね土方」
そう言い返せば、温かく大きな手がくしゃりと前髪をかき上げる。
「そんだけ言う元気がありゃあ大丈夫だな」
優しく微笑む姿は、女たちが騒ぐのも頷ける。だけど‥‥‥‥誰にも絶対渡さない。
アンタは俺だけを見てりゃあいいんでさァ。
小さい頃からの幼なじみ。恋なんてまだわからないうちから好きだった。
手に入れたのはほんの最近。たった一人の家族を失った時、この純粋な人を半ば騙すように手に入れた。
なのに他の奴に目がいくなんて絶対に許さない。
「‥‥‥全然」
「あ?何か言ったか?」
小さく呟くと間近に覗き込んでくる綺麗な瞳。
俺は、自分の黒い部分を見透かされそうで視線を逸らす。
かわりに上半身を起こしその腕を掴む。
「土方さん。キスして下さいよ」
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