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今日はやけに冷え込む一日だった。
本来なら非番なのだが、昼はたまっている書類整理に没頭し、夜から休みをとることにした。
一歩外に出ると、痛いほどの冷気が纏わり付いてくる。
だけど。
こんな時ほど人恋しくなるってもんだろ。
その辺で買った甘い手土産を持って、俺は約束も無しに万事屋の玄関を開けた。
「邪魔するぞ」
そう声をかけても返事がない。
誰もいないのか?
とりあえず上がり込み、戸をガラリと開けると。
――――いた。
もっこもこに着膨れして毛布まで巻き付けて長椅子に座ったまま眠っている銀が。
「オイ、銀、起きろ」
ゆさゆさとその体を揺らすと、毛布に顔を埋めていた銀時が寝ぼけまなこで顔を上げた。
「んあ?あー、あれ、土方くん。‥‥‥夢?」
「夢じゃねぇよ」
隣にボスンと座り、煙草に火を付けると、横から伸びてきた手が俺の髪の毛をサラリと少し掻き上げ、まだ眠そうな顔がヘラッと緩くなる。
「ほんとだ。本物」
「たりめぇだ」
「しかも私服ー。もしかして今日は休みだったの?そんでなに、銀さんに会いたくなったってわけ?」
至近距離で上目遣いに見られればなんだかドキリとして。思わず目を逸らして煙草を吸い込む。煙を吐き出しながらチラと隣を見ると、紅い瞳を輝かして答えを期待してるかのようにこちらを見ている。
「べべべ別にっ!そんなんじゃねぇし。たまたま近くまで来たから寄っただけだしっ」
「ふーん。たまたまねぇ」
ニヤニヤしながら楽しそうな銀時。
俺の顔が熱い気がする。
やべ、言葉が上手く出てこない。お前が、んな綺麗な瞳で見るから。
「んで?て、てめぇはそんな姿でなにしてたんだ。つぅかこの部屋、すっげえ寒くねぇか?」
吐く息は白く、突き刺さる冷気で煙草を持つ手もかじかんでくる。
「あーそうそうそれ!そっれがさあ、ストーブもコタツもよ、タイミング悪くいっぺんに壊れちまってよ。新品買う金も無いし修理に一日かかるっつうから今日だけは我慢しよかってなあ。神楽は流石に風邪引いちゃいけねぇから新八んとこにあずけたがな。せっかく来てくれたのに悪ィな」
「それでこんなに着込んでんのかよ。ったく、お前はいいかもしんねぇが俺が風邪引きそうだ。今日は帰る。んじゃな」
今の時期に風邪なんか引くわけにはいかない。ちょっと心寂しいが、顔を見れただけでも今日はよしとするか。
そう思いながら椅子から立ち上がって一歩踏み出すと、くんっと右腕の着流しの裾が後ろへと引っ張られる。
振り返ると銀時がしっかりと握り締めていた。
「んないそいで帰んなくてもいいじゃねぇか」
捨てられた子犬のような顔で見ないで欲しい。
仕事なんか気にしないで、ずっと一緒にいたくなってしまう。
「いや、ここほんと寒いしな」
振り切るようにそう告げると、銀時はハァーと白い息を吐き出しながら立ち上がった。
「ちょっと待ってろ、確か火鉢があったから今出してやるよ」
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