迷子ちゃんに愛の手を 3 「あ・・も、や、銀時、う、ごいてっ」 俺のなかに入ったまま、背中にくっついて離れない銀時。後ろからの圧迫感と脈打つ熱さに耐え切れず俺は懇願する。 「だ−め」 そう言い放ち、一度精を吐き出しながらも、また熱を持ち、出口を求めている俺の根元をキュッと握る。 「ぅあっ!!な・・んでっ」 −−−なんで銀時はこんなにいじわるするんだろう。行為自体は、投げやりな自分相手なのに、もどかしくなる程優しく、丁寧なのに。 言葉は冷たい。 やはり、自分に悪いところがあるのだろう。 銀時は自分など相手にするよりいい香りのする女を買いに出たに違いない。 それなのに邪魔してしまったのだ。 その上、こんな相手までさせてしまって。 多分、だから怒ってるに違いない。 なんだか、そんな余計なことが頭をぐるぐるまわる。 だけど、追い詰められている欲望は止まらない。 涙が、出てきた。 己のふがいなさに。 「なに、どうして泣いてんの」 涙を指先で掬われ、耳元で小さく問い掛けられた。 「だって、お、まえは、俺と、こんな、したくなかったんだろう?だから、いじわる、してるっんっっ」 情けないことだか、涙をこぼしながら、続けようとした言葉を手で塞がれた。 「まーた」 銀時の呆れたような声がした。 「ね、これわかる?」 「ぁあっっ」 繋がった部分を軽く突き上げられた。我慢させられている分、足先にまで痺れが走り、自身の先から液が溢れたのがわかる。こんな時でも性に逆らえない体が疎ましい。 「小太郎」 びくん、と体が震える。 その名で呼ばれるのには慣れていない。 今では呼ぶ者も本当に近しいものだけ。 「銀さんのコレ、嫌だったらこんなになってるわけないでしょ。大体、嫌々でやるほど広い心じゃないっつーの」 ?確かにソレは立派な存在感を示しているが、生理なものではないのだろうか? 「じゃ・・なん、で」 なんで?俺としてる? 「なんでって・・・好きだからに決まってんでしょ」 「す・・・き?」 「そう。だから目の前で変な男にさらわれそうになってりゃ怒るし、かわりでもなんでもお前とセックスしたかったの」 「な、に。銀時が?俺、を?」 頭の中に話しが伝わるまで時間がかかった。 「あーッもう。その話はあとでいいから。もう銀さん、我慢できないから。小太郎のかわいいとこいっぱい見せられて銀さんのパンパンなの。わかるでしょ」 確かに熱さは少しも変わらない。どころか、先程よりも圧迫が大きくなってる気が・・ 「だから、動くよ」 言いながらもう動き始めていた。 最初はゆっくりと、ニ、三回煽るように動かれ、直ぐにそれは激しいものへと変わっていく。 「ぅあっ!あぁっ・・はっ」 打ち付ける波に、先程のことを考えようにも、わからなくなってくる。熱がまるで毒のように全身にまわり、あちらこちら熱くて、なにもかも考えられなくて。 ただ−−−今与えられる快楽に身を任せた。 「ぁあっ?!」 不意に後ろから貫かれていたものが抜かれた。俺は二度精を放ち、銀時も一度中で放ってはいたが、硬さを取り戻していた。 ぱたぱたと中のものが零れ落ち、喪失した感触に体を震わせる。銀時を振り返って見ようとすると、今度は体ごとひっくり返され、仰向けにされた。 欲に濡れた瞳に見つめられると、顔が赤くなるのを感じ、目を背けた。 −−−初めて見る、表情だった。 グチュ、と卑猥な音をたて、再び根元まで、ゆっくりと侵入してきた。 「はっ・・」 律動がはじまるかと思いきや、そのまま抱きしめられた。 「小太郎。銀さんをもっと感じて。お前の中にいるのは、過去の男でもなんでもない。俺だよ。・・・高杉じゃない。銀時だ」 銀時は、何故だか苦しそうな顔をしている。お前は・・・いつから知っていたのか。俺と高杉の関係を。 「なんでも、知ってる、だな」 「たりめーだ。好きな奴のことはなんでも知りてぇもんさ。・・苦しい事もあるけどな」 フッと、自嘲気味に口の端で笑みを作っている銀時が、無性に愛しく思えた。 「銀時」 頭を抱え寄せ、その頬にキスをする。 「小太郎?」 銀時が不思議そうな顔をしている。 「今、わかった。俺もお前のことが好きらしい」 「は?」 鳩が豆鉄砲をくらった顔っていうのは今の銀時の ことをいうのだろう。 なんだかおかしな日だ。 今日はいろんな銀時が見れる。 「お前が好きだ」 「えーと、あの。それってマジ?」 「嘘などいってどうするのだ。それとも嘘のほうがよかったか」 「いやいやいや、そんなことは全然ありません」 「じゃ、続き、シヨ」 なんだか楽しくて、熱に浮されたように言葉が出てくる。 あの銀時が俺の言葉一つ一つで表情がくるくる変わっている。 早く愛して欲しくなった。早く愛し合いたい。 なんだ、この感じ。 「銀時、早く」 煽るように言葉を紡ぐ。 「もう手加減しないぞ。なんたって愛し合ってるからね」 そう言うとニヤッといつもの意地の悪そうな笑顔を浮かべる。 あれ?もうちょっと後でも告白はよかったかも?思いついたら話してしまう自分を恨めしく思った。 散々責められて、気を失ってしまい、目が覚めると俺は銀時の腕の中にいた。 ・・・初めてだった。 愛しい人のなかで目が覚めるというのは、こんなに温かいものなのだろうか。 「起きたのか?すまないな、初っ端から暴走しちまって。でももう返品不可だかんな。クーリング・オフもねぇかんな」 「ふっ、わかっている。ところで、一つ聞いていいか」 「なに」 「その、お前は何時から俺のこと」 ぼそぼそと声が小さくなる。でも聞いてみたかった。なにせ自分が自覚したのはつい先程だから。 「あ?そんなこたあ覚えちゃいねーよ。だってずっと一緒だったろ、俺達。淡い恋心なのに、高杉に持ってかれるわ、自害しよーとするわ、知らない男に付いていこうとするわ、危なっかしいくて目が離せないんだよ、お前は」 「す、すまぬ」 確かに思い返せば銀時には迷惑ばかりかけている気がする。攘夷戦争で敗戦とわかり、自害しようとしたときも銀時が助けてくれた。 「だけど、今は、銀さんのものだろう?」 優しい優しい目。 「ああ、そうだ。お前のだな」 ぬくもりが、ほしいと思った。 だが本当に欲しいのは体のぬくもりじゃなかった。 ようやく胸の穴が塞がったようだ。 「銀時、死ぬな」 戦場で何度も言った。 「銀さんがお前残して死ぬ訳無いだろ。お前のほうこそ心配させんじゃねえぞ」 そう言って、紅桜で受けた、まだ生々しい傷をなぞられる。 自分のほうが傷だらけのくせに。 もう一人ぼっちじゃない。 手を引いてくれる人がいる。 もう、迷子にはならない。 終 [*前へ][次へ#] [戻る] |