迷子ちゃんに愛の手を 2 どこへ行くともなく、歌舞伎町の町ヘ出た。 ただ・・・人が恋しくて。 夜の町らしくネオンが光る、喧騒の中をふらふらと歩いた。 「おい!いてーんだよ!」 どうやらいつの間にか人にぶつかっていたらしい。 「すまない。なにやらぼーっとしていたみたいだ」 「どうしてくれんだよ!!俺の大事な服が汚れちまったじゃねーか!」 汚れた? 相手の服をみると、確かに何かの染みが出来ている。 「ああ、悪いことをしたな。よかったら俺の羽織りをやろうか」 「はあ?!冗談じゃねーよ!なんでお前の服貰わなきゃなんねーんだよ!・・・つうかお前、きれいな顔してんなぁ−。お前が一晩相手してくれんならゆるしてやってもいいぜィ」 −−−下衆が。 金髪に下品な笑いを浮かべている顔を見る。 −−−いや、今の俺にはこんな奴くらいが似合いか。 「いいだろう。一晩付き合ってやる」 「まじかよ!」 「お主がいいだしたことだろう。なんなりと好きにするがいいさ」 投げやりに言葉を放つと、男は肩に腕をかけ意気揚々とあやしい方向に足をむけて歩み出した。 「おい。そこの変な格好のおにいさん」 背後から見知った声がした。 「あぁ?俺のこといってんのか?」 振り向くと、やはりあいつだった。 「返事するってことは、自分が趣味悪いって理解してんじゃねーか。えらい、えらい」 完全に馬鹿にしたようにうすら笑いを浮かべて立っている。 「てめぇ、ふざけんじゃねぇぞ!!!」 肩から手を外し、男は殴りかかっていった・・・が、あっという間に蹴り飛ばされ木刀を頭上に突き付けられている。 「俺ァ、まどろっこしいの苦手だから単刀直入に言うがよ。そっちの兄さん、俺のほうが先約なんだよね。お前、消えて」 青ざめた趣味悪男は、変な奇声をあげながらどこかへ消えていってしまった。 俺はまた行き場を失った。 「銀時、お前と約束などしてた覚えはないのだが」 「ヅラ、お前、あんなやつと二人でどこ行くとこだったんだよ」 人の質問には答えず、質問で返すとはなんて奴。 「ヅラじゃない桂だ!あ、いや・・貴様には関係ないことだ」 何故か後ろめたさを感じてその場を早く離れたい気持ちでいっぱいになった。 「とにかく、用がないなら失礼する」 逃げるようにその場を去ろうとした。 −−−が。 「俺にはあんの。ったく、いい大人がガキみたいなことしてんじゃないよ。いいから、ほら。うちいくぞ」 銀時は痛いくらいに俺の左手をつかみ、ズンズン歩いていく。 後ろ姿は何か怒ってるようにも見えた。 万事屋の中には誰もいなかった。 「ほかの奴らはどうしたのだ」 沈黙に耐え切れず、だされたいちご牛乳を一口流し込み、問い掛ける。 「新八は夜は自分ち帰るし、神楽は今日は新八んちにお泊りだってよ」 「そうか・・・ぎ、銀時はなにをしていたのだ」 なんだか居づらい。 いつものふざけた銀時と違う気がして、声が上擦ってしまう。 「俺?俺はあれだよ。暇だしぶらぶら散歩してただけだよ。つーかお前はなにやってたの。指名手配犯がふらふらしてんのはやばいんじゃねーの。捕まえてくださいっていってるもんだよ?」 「お、俺も夜の散歩をしてただけだ」 「ふぅん。それでなんで肩抱かれてホテルに入ろうなんてしちゃってたわけ。あんな趣味悪い奴と」 正面からジッと紅い目で見られると苦手だ。全て見透かすような目。 「そ、それは、男子たるもの、性を吐き出したくなるときもあるのだ。相手なんて誰だっていい。貴様だって、あれだ。同居人のいない間に欲望を満たそうと街に出ていたんじゃないか」 なんだか見つめられてると調子が狂う。自分で何を言っているかわからないくらいに早口でまくしたてていた。 「ま、銀さんはそんなとこだよ。お前の考え当たってるよ」 「そ、そうか」 自分の口から言っておきながら、何だかキュッと胸が痛い。なんだろう?痛みに顔が下を向いてしまう。 「そんな顔してんじゃないよ。ショックなのは銀さんのほうだっつーの」 「え?」 ぼそぼそと銀時がなにかいった気がした。 聞き返すと、いきなりテーブルを乗り越え、キス、された。 「な・・!」 突然の出来事と至近距離距離の迫力に心臓が早鐘を打った。 「なあ、ヅラよぉ。さっきの話からだと、俺もお前も欲求不満で街に出たわけだよな」 「あ、ああ。そうなるな」 「じゃあ、二人で解消してもいいんじゃね?」 「は?俺と・・お前が?」 「誰でもいいんだろ」 冷たい声に俺の体は凍り付く。 そんな俺に、銀時は再び口付けた。言葉の冷たさとは裏腹に、最初は軽く、次は優しく唇を啄むように何度か刺激される。舌がするりと口腔内に入ってきた。上あごを舐め上げ、舌を絡ませ合うと、クチュクチュといやらしい音が部屋に響く。 「んっ・・・はっ・・ぎ・・ん、んんっ」 久しぶりの接吻に、すっかり呼吸のしかたも忘れてしまった俺は、息が苦しくなり、必死に声を掛けようとするが上手くいかない。 暫くしたあと、唇は介抱されたが、やっと息を自由に出来るようになった俺は、銀時の肩に頭をのせ息を整えるのが精一杯だ。 「高杉のことなんか頭から追い出してやるよ」 耳元で銀時が優しく囁いた。 なんだ、全てわかっていたのか。どこまで知っているのだろう。この男は。 いつも飄々とした顔をしながら、さりげなく包容力を発揮する。かと思えば人一倍熱くなるときもあり、また気力なさげに振る舞うこともある。 食えぬ男だ。だが今は。−−−縋りたい。 俺は、声を出さずに、銀時を抱きしめた。 [*前へ][次へ#] [戻る] |