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儚く遠く愛おしく。2


ふっと目が覚めると、頬に涙がつたっているのに気付く。
‥‥‥楽しく懐かしい思い出にもっと浸っていたかったのか。それとも、あの頃とは違う現状に心が憂いたのかは自分でもわからなかった。

喉の渇きに気付き、水を取りに台所へと向かうと、何かが視界の隅で動いたのを感じる。

賊か?‥‥‥‥

指名手配ともなれば、いつも真剣を尖らせているのだが気付かなかった。
ここに侵入しているということは、外の見張りもやられているということだ。

そっと刀を手に取り、押し殺しても漏れ出ている気配に近付き、斬り付ける。


「あぶねぇなあ‥‥‥危うく斬り殺されるとこだったぜ」


懐かしい声によくよく見れば、先程まで夢で見ていた、高杉晋助本人であった。


「高杉っ!貴様っここで何をしている!!」


旧知の仲とはいえ、もう自分達は袂を分かち敵となってしまった筈だ。


「まあ、そう興奮するな。‥‥‥お前さんに会いに来た、といったら?」


雲が晴れたのか、月の光りが高杉を浮かび上がせる。


「‥‥‥お主、何を企んでいるのだ」


抜き身の刀をそのままに。
高杉に向け、問い正す。


「今日は七夕だろうがよ?巡り会わせってもんもある。会いに来ちゃあ悪いのか」


ニヤニヤ笑いながら話す高杉からは企みが読み取れない。


「‥‥‥そんなことのためにわざわざ江戸に来たとは思えんがな」


確か今は京都に潜伏にしていると聞いている。それが江戸にいるとは、何かあるはずだ。


「そんなことたあ、酷い言い草じゃねぇか。なんもしねぇよ。刀をしまえ」


とりあえずは敵意のない様子に刀を鞘に納める。


「こちらへこい」


台所で敵意のない相手と睨み合っていても仕様がない。
下ではエリザベスや他の者が眠っている。誰もいない、二階の奥の部屋へと案内すると、高杉は大人しく後ろからついてきた。


「江戸へ来た本当の目的はなんだ」


何もない部屋で向かい合わせに座り、問いただす。


「んあ?お前もしつけーな。会いにきたっつてんだろ」


相変わらずの飄々とした口ぶりに神経が苛立つ。


「そんな訳ないだろう!」


そんな訳がない。
こやつは俺と銀時を春雨手を組むために売ったほどの奴だ。


「まあ、そう興奮するな。そうさな、今日、花火が上がるだろ?」

「お前、まさかまた!」


騒ぎを起こす気か?といおうとしたが先に遮られた。


「それに場じて戌共の目が緩くなるから、武器を調達しに来ただけだ。ま、俺は動かねぇけどな」


ならば何故、いまここにいるのだろう。
訝しげに高杉を見やると、つい、と手が髪にのびてきた。


「なにをっ‥」

「相変わらずサラッサラな髪してんな」


長い髪が持っていかれ高杉の口元へと届く。
艶のある瞳に見られ、身体が熱くなり硬直するのがわかった。


「俺ァ、なんだかお前が泣いてるような気がしてな」


髪を離した手がそのまま頬にのびてくる。
金縛りにあったかのように身体が動かず、目も高杉と合わせたまま反らすことも出来なかった。


「無性に会いたくなって。それで来たんだよ‥‥‥小太郎」


抗う術など忘れてしまったかのように。時が戻ったかのように。
その瞳に捕らえられたが最後、重なる唇をたやすく受け入れながら目を閉じた。


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