儚く遠く愛おしく。1
「ヅーラーかーみー、さーらさらぁ♪」
「‥‥なんだ、その歌」
「いや別に?お前の髪の毛見てたらでてきた」
「気が散るから歌うな!」
「っつうかさぁ、早く書けよな。何、短冊くらいで悩んでんだよ」
二人しか残っていない部屋の中で、短冊を目の前にして難しい顔をしている。
「だって思いつかぬのだ」
「んなの、適当だろー。銀時なんか『だんごがいっぱい食べたい』だってよ。早く書いて遊びに行こうぜ」
ふと気になり、髪を結い上げた男の子は、もう一人に聞いた。
「お前はなんにしたのだ?晋助」
「俺か?俺は『村塾万歳!!』だ」
自信ありげに見せた短冊には、力強い字で枠いっぱいにその字が書かれている。
「え。それって願事‥‥」
「いーんだよ、松陽先生も枠にとらわれず好きなこと書きなさいっつってたろ?ほら、お前もさっさと書けよ。日が暮れちまうぞ」
「んー。うん。決めた」
筆をとり、思いを短冊に書き記す。
「できたか?」
「うん。これでよいかな」
「ふーん。なんか悩んでた割には普通だな」
髪の短い少年はつまらなさそうに呟く。
「い、いいだろ別に」
「まあいいや。小太郎、早く先生とこ持って行こうぜ」
そういって先に部屋を出ていってしまう。
「あ、待ってよ晋助!」
?
先に行ったのをみて、急に寂しくなり、必死に追いかける。
***
それは梅雨の合間の、青空が広がる暑い日のこと。
今では遠くなってしまったあの日の出来事−−−。
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