迷子ちゃんに愛の手を 1 「きれいな髪だな」 俺の長い髪を手ですきながらあいつはそういった。 「そ、そうかな?最近は手入れもままならんので以前程ではないと思うぞ」 その言葉を気恥ずかしく思いながら、照れ隠しに胸に顔をよせる。 「−−−長い髪は好きだ」 高杉はぽつりと呟いた。 胸が、痛い。 チクチクする。 今、自分はどんな顔してるんだろう。 「晋助が好きならもっと伸ばすことにしよう」 顔をますますくっつけ、表情がわからないようにする。 わかっている。 晋助が長い髪をみて誰を思ってるか。 わかっている。 俺を好きなわけじゃないってことも。戦場での高まる気を鎮めるための体の繋がりだとしても。 わかってるけど、ただ今はこの胸に抱かれていたい。戦の中、いつ死ぬかわからないような中でのこのひととき。 好きな人に抱かれていたいではないか。 「晋助」 寝たのを確かめてから、静かにその名を呼ぶ。 愛しい人の名を。 −−−−−−−−− 久しぶりにみた。 久しぶりに声を聞いた。 顔付きは変わっていたがあいつだった。 −−−俺は隣にいない。 隣にいたのは短髪の、誰か。 気にしてないつもりでも心がざわめいた。 もう終わったことだとわかっていながら嫉妬した。 そばにいるのは自分ではなかったのだ。 そして、晋助は簡単に自分を切り捨てる。 友としてさえ、春雨と手を組む道具とつかわれても、尚、心にのこる。 あの姿。 過去のことなのにキリリと痛む胸が苦しい。 誰かに自分をいさめて欲しい。 否、抱きしめて欲しい。 −−−今だけは。 [次へ#] [戻る] |