6 ミチャッタ
すっかり酔っ払ってしまった。
フラフラと厠をさがして会場を出る。
曲がり角に差し掛かったところで見知った声がした。
「やめろ!!」
土方?
「いいじゃないか、‥方。お前‥‥は‥俺の‥‥」
アイツ!眼鏡!!
土方は俺に背中を見せているから見えないはず。
なのになにか見てはいけないところに出くわしてしまったかのように感じて、思わずさっと隠れてしまう。
「ざけんじゃねぇ!」
土方の声が廊下に響き、俺はビクリとする。
「フッ。そんなに‥‥か?」
伊東とやらの声は小さくてよく聞こえない。
「うるせぇ。黙れ」
どうしても気になり、そっと覗き見た。
!!
伊東がこちらを見ていた。
−−−ばれた!!
隠れようにも蛇のような伊東の目に囚われ、目が離せない。
と、唐突に伊東は土方を抱きしめ、口付けをした。
眼鏡の奥の瞳が、ニヤリと笑った気がした。
−−−−俺は、その場から逃げ出した。
会場の外にででタクシーに乗り込む。途中酔っ払ってふらふらになった足が縺れ、転んだ気がする。
早く、ここを離れたかった。
家に。
家に帰りたい。
こんなとこ、こなきゃよかった。
−−−何も、知らないほうがよかった。
輝くネオンを横目に見ながら、涙が頬を濡らした。
いや。
あれが現実じゃん?
これで理解が出来た。
自分はもう飽きられてたのだ。
なーんだ、そっかあ。
そうゆうことか。
涙は止まらないのに、なぜか笑えてくる。
バカバカしい。
どうせ恋なんて、こんなもんだ。
甘いお菓子のようにはいかない。
自分の物語が自分の書くもののように甘い話なんて都合良くなんていくわけがない。
あれは、物語だからだ。
自分が夢見て希望している、話。
タクシーを降り部屋に入る頃携帯が鳴った。
まさか土方?
ドキリ、として画面をみたが、沖田くんからだった。
「あー、もしもし?」
「旦那、どこにいるんでぃ」
相変わらずの緊張感の無い声。
「悪ィ。ちょっと飲み過ぎで気分悪いから、先帰って来たわあ」
「なんだ、それならそうと一言いってくだせぇ。なんかあったかと思って捜しやしたよ」
「そうなの?面倒かけたね」
いつになく素直な俺。
やべ、声が震えてるかもしんない。
「‥‥‥旦那?、大丈夫ですかィ」
優しい声が滲みる。
「ん?‥‥ん−。ちょっ、と、ダメ‥かも」
最後の声が消え入るように小さくなってしまった。
きっと酔っ払ってるせいだ。
だから、ちょっと弱くなってるだけ。
「今、行きやすから待ってて下せェ」
「え‥」
電話はプチンと切れた。
その後、本当に来た沖田くんはなんにも聞かずにただ寄り添って抱きしめていてくれた。
俺は、自分から沖田くんを誘った。
例え、ひと時でも温もりが欲しかった。
−−−−それが沖田くんを傷付けともわからずに。
欲望を満たし全てを頭から追い出そうとしていた。
自分自身しか見えていない、最低なヤローだった。
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