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汗で張り付いた前髪をかきあげて手ぬぐいを乗せる。


「大丈夫かよ」

「大丈夫‥‥‥」


サングラスをとってもその瞳は閉じられていて。
睫毛、意外と長いな、とかつい間近で眺めてしまう。


「晋助、マシになってきたから枕して、膝枕」


パチリと目が開いたと思ったら、子供のようなことを言い出した。


「なんで俺がっ 」

「いつもは拙者が枕してるから、こんな時くらいは」


上目遣いに見上げられると、なんだかかわいく見えた。
オイオイ‥‥相手は万斉だっつーの。いや、万斉だからか?末期だろ、俺。


「しょうがねぇな。今日だけだ」


結局負けてしまう俺って、やっぱコイツに甘ぇな。
立てていた足を草の上に横たえ、万斉に告げると、喜んで頭を乗せてきた。


「いい大人が喜んでんじゃねぇよ」

「嬉しいでござるよ。これ、落ち着くでござるな。晋助がこうしたがるのがよくわかる」


そういって腰にギュウと抱き着いてきた。
あまりにも嬉しそうにしているので、いつもは引きはがすところなのだか、今日はそのままにしてみる。

ゆっくりとした時の中、樹に止まっているのか蝉の声が耳に響く。


「あっちぃなあ」


一人でいた時は木陰なのでそんなに気にならなかったが、今はなにせ高体温のものが下肢に巻き付いている。
流石に汗もジワリと滲んできた。

茶でも飲むか‥‥‥

万斉の持ってきた袋を手に取ると中に他にも何か入ってることに気付く。


「なんだこれ?‥‥ぶどう?しかも凍てっしっ」


ひんやりとしたガラスの器から出てきたのは、房から外されコロコロとしている、大振りなぶどう達。


「あぁそれ、また子殿がおやつにって持たされたでござる」


寝たかと思った万斉から声がかかる。


「晋助。拙者、それ食べたい」

「はあ?食べたけりゃ自分で食べりゃいーだろ」


いい加減、調子にのんじゃねぇぞ、と思いながら却下。


「暑さにやられてそんな元気ないでござるよ。仕事早く終わらせた褒美に、ね?」


そういわれれば、許したくなる自分。
今日はおかしい。
この景色を眺めて、人恋しい気分にでもなっているのか。


「‥‥‥特別だぞ」


少しとけているとはいえ、凍ってるぶどうを皮を剥くのはなかなかに面倒だ。
いつもなら立場は逆の筈なのに、と思いながらも渋々剥いてやる。


「ほら、出来たぞ」


剥いたぶどうを差し出すと、手首を掴まれそのまま口元に運ばれる。
指ごと口に含まれ、ぶどうの実が指から離れても、熱い舌がクチュリと指先や指の間に絡んで来る。


「んッッ」


背中にゾクリとした感覚が走り、思わず声が漏れでると。


「かわいい、感じやすい晋助」


下でニヤリと笑って 見上げでいる万斉がいた。


「‥‥‥もうてめぇにはやらねぇ」


次のぶどうは自分の口に入れた。


「拙者にも、もっとちょうだい」

「何がちょうだいだっ、キモッ!変なことする奴にはあたらねぇんだよ」


そう言い放ち、次のぶどうも自分の口の中。

−−−と、不意にのびて来た腕に頭を囚われ、気付いた時には万斉の唇に塞がれていた。


「んぅぅッ−!!」


離れた時には口の中のものは奪い取られていた。


「ん、甘い。こっちのぶどうはまた格別でござるな」

「てんめっ、何しやがるっ」

「晋助がイジワルしてくれないから。くれないなら奪うしかないでござろ?」


悪びれずにそういわれると、なんとも言い返しにくくなる。


「くっ‥‥‥わーったよ。剥いてやっから大人しくしとけ」


結局、せっせと万斉のために皮を剥いては冷たいぶどうを口に運ぶ作業に没頭することになる。


「たまにはいいでござるな。晋助は優しいし、景色は綺麗だし、こんな休日も」

「‥‥‥‥ああ、そうだな」


満足そうに眼を閉じる万斉を見て、同じくそう思う。






懐かしい、夏草の香り



騒がしい蝉の声



郷愁に流れそうになる涙を止めてくれるのは



そばにいる、お前の存在



夏の暑い日の、淡い休日





20090724

→あとがき

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あきゅろす。
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