1 夏の暑さに負けた男がここに一人。 「なにやってんだ、お前」 「いや‥‥晋助の為に冷たい飲み物を、と思って」 そういって横たわってる万斉は、顔が蒼白。 多分、合流してすぐにこっちにきたんだろう。 無理すんなよ。心配性。 鬼兵隊の主要メンバーは今、京の田舎の隠れ家に暑気払いも兼ねて来ている。 万斉は−−−−夏のイベントがどうやらで表の仕事が忙しいらしく、後で合流ということになっていた。 俺は、この田舎の隠れ家が結構気に入っていた。さして、どこもかわりはないのだが、ただ一つ。 少し離れた小高い丘の上からみる景色が、懐かしいあの頃の雰囲気に似ていて。 この隠れ家に来た時は、一人でこの丘に来ては、何時間も過ごすことがよくあった。 相も変わらず、今日も丘の上で大きな樹に背を預け、煙管をふかしながらボーッとしていると、暑っ苦しいコートを着たまま、手に何やら持った万斉がよろよろと歩いて来るのが見えた。 「晋助‥‥‥一人では危ないと‥いっているのに」 そう言って力尽きたかのように、木陰に横になった。 そして、今に至る。 「おめぇは鍛え方が足りねぇんだよ」 「す、すまぬ」 「大体よぉ、この太陽の照ってる時にその黒い服で炎天下歩いてくるのがおかしいだろ」 自分が持って来ていた水を取り出し、もっていた手ぬぐいを濡らして、首や顔に当てる。 「いや、これは拙者のトレードマークであるから、他のは嫌でござる」 「何言ってやがんだ。思いっきり光、吸収してやがんだろ。そのうち黒焦げになんぞ」 どうせ、急いで来たんだろ。 太陽にやられるくらい、無理したのか。 また寝てねぇんじゃねぇのか。 聞いた予定より、随分合流が早ぇじゃねぇかよ。 「黒焦げは嫌でござるなぁ」 そう、弱々しくいうコイツが無性に愛しく思える。 「だろ」 [次へ#] [戻る] |