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放課後の時間
青陽 2


 クラス替えがあった、高三の始まりの日。
 同じクラスになったバスケ部の恭平といたところに、教室の扉をくぐってまたひとり、部員の敦が近づいてきた。
 その敦と一緒に入ってきた、見知らぬ顔の同級生が遠理だった。
 俺達の輪に加わった遠理は、皆より頭ひとつ分も小さい。しかし物怖じする様子もなく、遠理は快活だった。
 良く動く口に、ころころと変わる顔の表情。笑うと大きな目の端が垂れ、年より幼く見える。多少大袈裟な動作につられて揺れる前髪が柔らかそうだ。
 そう思った時には、もう目が離せなくなっていた。
 練習中に負った怪我が原因で部活を辞めなければならなかった俺は、それまでバスケ三昧だった放課後にいきなり訪れた空き時間をどう使っていいのか分からず、途方に暮れていた。
 他にしたいことがあるわけでもなく、暇をもて余し、鬱屈と過ごしていたところに現れたのが遠理だ。
 遠理は怪我の話を聞いても、両親や顧問のように俺を責めたりしなかった。
 バスケを続けている敦と恭平に、以前と同じに屈託なく接することができたのも、遠理が俺達の間に入ってクッションの役目を果たしてくれたからだ。
 バスケができなくなった俺は、どうしようもない無気力に囚われ、空虚な時間に溺れかかっていた。
 そんな時に遠理をみつけ、彼の細く頼りない身体に縋りついたのは、溺れる者が藁を掴んだ必然の結果だろう。
「最近、遠理の元気がないんだよね。あんまり笑わなくなったしさ。青陽、お前なんか聞いてない?」
 敦に探るような眼差しを向けられて、俺は益々躍起になった。
 いつまで経っても感じない遠理に焦れ、無茶な態勢をとらせて無理矢理に快感を引きずり出す。
 男同士のセックスで一方的に女役にさせられている遠理が、何も思わないわけはないのに。
 しかし、遠理から笑顔を奪ったのは俺だという自覚はあっても、それでも放してやる気にはなれなかった。笑わない遠理に素知らぬふりをして、顔も見ずに家に連れ込んで抱いた。
 感じるようになれば、俺とのセックスに溺れるようになれば、遠理も俺から離れられなくなるだろうと、その時はまだ高を括っていたのだ。
 縋りつきたかったのは遠理の身体ではなく、心だったのだと気がついたのは、遠理が俺から離れていった後のことだ。
 身体を繋げることはできても、心が繋がっていなければただ虚しい。
 肝心なことに気づくのは、いつだって大事なものを失くしてからだ。
 遠理が好きだった。
 今でも俺は、遠理が好きだ。

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