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放課後の時間
遠理 1


「うっ、く……」
 挿入時に後ろの窄まりを広げられる恐怖感と、内側を擦られることによって生まれる痛みは、何回ヤっても消えてはくれなかった。
 俺はベッドにうつ伏せになり、自らの意思で腰を高く上げ、青陽(せいよう)を待つ。
 それでもいざ尻の割れ目に硬いモノがあてがわれると、前回の痛みを覚えている身体が無意識に逃げたがり、匍匐前進さながらベッドの上へ這っていこうとする。けれど、俺の腰を掴んでいる青陽の指に力が込もったことに気づいて、両手と両膝を踏ん張って耐えるんだ。
「んっ、うー」
 噛みしめた唇から漏れる、快感の喘ぎとは言い難い俺の声に躊躇いながらも、青陽がゆっくりゆっくり入ってくる。
 俺にはその緩慢な動きがかえって焦らされているようにも、なぶられているようにも感じられ、もういっそ一息に突いてくれればいいのにと、全身の毛穴を粟立たせながら受け入れることだけに集中していると、やがて俺の中に全てを埋めた青陽が一旦動きを止めた。
「ああ、いい」
 すると不意に頭上から、思わずといった、感極まった低い囁きが降ってきて、
 そうか、青陽は気持ちいいのか。
 ……なら、良かった。
 安堵した俺は、はぁーと息を吐きながら肘を折り、シーツに顔をつけた。後はことが終わるまで、ただじっとしていればいい。
 俺は、青陽が好きだった。
 そうでなければ、自分の股間についているのと同じモノを体内に埋め込まれて、誰がされるがままになんかなるもんか。
 青陽と初めて会ったのは、高三に進級した日だ。
 クラス替えがあった始業式の朝。
 一年の時から同じクラスの敦と一緒に新しい教室に入っていくと、
「おー」
 敦の部活仲間の恭平が俺達をみつけて、嬉しそうに手を振ってくる。その恭平の隣に立っている、知らない顔の同級生が青陽だった。
 バスケ部の敦や恭平と並んでも、見劣りしない高身長。
 目尻がつり上がり、少し取っつきにくい感じがする青陽は、皆といてもほとんど口を開かなかった。無口な分落ち着いていて、同じブレザーの制服姿だというのに、幾つか年上に見える。
 そんな青陽が恭平の話に不意に吹き出した時、俺は彼の笑顔に惹きつけられた。
 瞬間、いいなと思った。
 特に、頬から顎にかけての、緩んだラインがいい。
 次の日からは、俺達は四人で行動するようになった。休み時間も、昼飯を食べるのも一緒だった。
 けれど放課後は、敦と恭平には部活がある。三年は次の試合を最後に引退することが決まっているから、練習にも熱が入っているようだった。
「頑張れよー」
 昇降口で二人を見送った後、
「じゃあ、俺達も行くか」
 青陽が、なんでもないような口振りで俺を誘う。目はいつまでも、駆けていく敦と恭平の背中を追っている。
「……うん」 
 俺達は学校帰りに青陽の家へ行って、セックスをした。
 青陽は誘う時、決して俺の顔を見ようとしない。そこには当然、これから肌を合わせようとする恋人同士の甘い囁きなど、あるはずもない。
 俺はその態度から、青陽の気持ちを察するしかなかった。
 去年怪我をしてバスケ部を辞めた青陽にとって、俺とのセックスは、急に空いてしまった放課後の手持ち無沙汰を埋めるための、単なる暇潰しなんだと。
 だから俺は、青陽に好きだと言わなかった。
 遊びでもいい。行為の最中はバスケを忘れ、俺のことだけ見てくれる。
 本当はされる側のセックスなんて、ちっとも良くなかった。それでも痛みを我慢して身体を差し出す浅ましい自分を、敦にも恭平にも、青陽本人にも知られたくなかった。


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あきゅろす。
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