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封魔師 ―垂天の翼―
其の八

 ところが難なく的を貫くかと思われた瞬間、護符がいきなり向きを変えた。
 的を見失った矢は虚しく空を切り、弧を描いて板張りの床に突き刺さる。
「はずした!?」
「ああっ!」
 俺が呻くのと同時に、代筆屋が絶望的な声を上げた。
 向きを変えた護符が、彼らの方へヒラヒラと舞っていったのだ。
 近づいてくる札を凝視して、代筆屋の動きが止まっている。
「なにをしている、代筆屋っ! 早く祐一を連れて表へ出ろ!」
 次の矢を放とうにも、ここからでは二人に当たりかねない。
 風任せに飛ぶ蒲公英の綿毛のような、気儘な護符の動きに翻弄され、俺は悔しさに奥歯をギリッと噛みしめた。
「駄目だ、晴。祐一が動かねえっ!」
 俺の叱責に励まされた代筆屋が、祐一の身体を揺さぶるが、彼はピクリとも動かない。
 そうだ、先刻から祐一は一言も喋らず、様子がおかしかったのだ。
「祐一、どうした。おい、祐一!」
 俺の呼びかけにも反応はない。
 しかしこのまま手をこまねいていても、火烏が彼らに近づいていくだけだ。
 俺は急いで框へ駆け戻った。
 矢が使えないのなら一か八か、弓で叩き落としてみるまでだ。
 上手くいけば、二人を逃がすまでの時間稼ぎくらいにはなるだろう。
 俺は護符が彼らの所に行き着く前に追いついて、弓を大きく振りかぶった。
 今度は狙い通り打ち落とすことができ、ギャッと叫び声を上げた符が再び舞い上がらぬよう、末弭(ウラハズ)で床にきつく押さえつける。
 そこで、ホッと息を吐いたのも束の間。
「代筆屋、今のうちに……」
 俺は、逃げろという言葉を呑み込んだ。
 代筆屋は律儀にも、先刻預けた夕餉の膳を片手に携えたままだ。
 それでも空いているもう片方の腕を祐一の首に回して、火烏から庇うように抱きしめている。
 祐一に覆い被さり、こちらに背を向けた代筆屋の脇の間から、二つの目が俺をじっとみつめていた。
「ゆう…… いち……?」



*弭(ハズ)… 弓の両端にある凸形状の弦をかける部分。要は弓の先っちょ。上になる方を末弭(ウラハズ)、下になる方を本弭(モトハズ)と呼ぶ。
参照 ウィキペディア


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あきゅろす。
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