**** 駆けながら懐に手を突っ込み、護符がまだ二枚あることを確認する。 問題は弓矢だ。 俺は間抜けなことに、祐一から夕餉の膳を受け取るために弓と矢筒を柱に立て掛けたまま、残してきてしまっていた。 見上げると、柱に刺さった護符がブルブルと震えている。中にいる火烏が矢を抜こうと、もがいているようだ。 木製の矢は強い力を加えられ、無理な形にしなっていた。 保ってくれ。 柱が近くなっても走る速度は緩めず、前屈みになりながら腕を伸ばす。 指先が弓に触れた時、砕けた矢の破片が降ってきて俺の頬を打った。 「ああっ、護符が!」 代筆屋が叫ぶ。 俺は咄嗟に弓と矢筒を掴み、柱の裏側に転がった。 すぐさま体勢を立て直し、護符のある方を向く。 見ると、戒めの解けた護符は柱から自由になり、ヒラヒラと舞い落ちていくところだった。 俺は急いで矢筒を背中に背負い、中から矢を一本引き抜く。 懐からは新しい護符を取り出し、矢尻の先にあてがって、弦につがえる。 そして弓を持ち上げ、落ちていく護符に狙いを定めた。 キーキーと喚く声は煩いが、火烏はまだあの中だ。 ジリジリと弦を引きながら、呼吸を整える。 引き切ったところで、左右に揺れる護符の動きと自分の呼吸を同調させ、護符が目の高さまで降りてきた一瞬を逃さず、吐く息と共に親指を離した。 キュン! 弦に擦れて小気味いい音をたてながら、狙いを過たず矢は飛んでいく。 ページ一覧へ |