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封魔師 ―垂天の翼―
其の六

 真っ先に護符を探したが、それは矢に貫かれたまま、変わらず柱に刺さっている。
 周りに魔物の姿も見当たらない。
「代筆屋。祐一を連れて表に出ろ。なるべく音をたてないように」
「ええ!?」
「シッ! 平気だ、魔物はまだ護符の中にいる。表へ出たら、全速力で母屋まで走れ。あそこまで魔物は追いかけてこない」
「てぇことは、これから魔物があの中から出てきて、俺達を追い回すってことか!?」
 飲み込みが早くて助かるよ。
 俺は代筆屋の質問に答える代わりに、
「アンタが俺の仕事の邪魔をしに、のこのこ現れるのがいけないんだ。これに懲りたら、もう俺に近付くのは止すんだな」
 嫌みでも牽制でもなく、真実を言った。
 代筆屋だってこんな目に遭えば、言われなくとも近寄ってはこないだろうけど、まあ念のためだ。
「そんなこと…… そんなこと、言うなよ」
 けれど代筆屋から返ってきたのは、俺が予想していたものとは違う応えだった。
「そんな悲しいこと、言うな。お前はこれから先ずっと、魔物だけを相手にして生きていくつもりか」
「……」
 だって仕方がないじゃないか。
 この町で魔物が見えるのは、俺だけだ。
 見て見ぬ振りをすれば、そのうち誰かが食い殺される。
 魔物を封じれば感謝はされるが、心の内では恐れられる。
 かといって人間を襲う前の魔物に、巣に帰れと話しかければ、それを見ていた人が気味悪がる。
 俺が人を寄せつけないんじゃない。
 人が俺を避けるんだ。
「俺と祐一は、お前を怖がったりしないじゃないか。晴、一緒に来い。俺達と逃げよう」
「……できない」
「晴!」
 代筆屋が声を張り上げる。
 今や屋敷中に、キーキーと喚く火烏の鳴き声がこだましていて、怒鳴るように喋らなければ、向き合っているお互いの声さえ聞き取りづらいほどだ。
 ぐずぐずしている暇は無かった。
「代筆屋、これを預かってくれ」
 俺は抱えていた膳を、彼に押しつける。
「祐一が折角用意してくれた夕餉だ。落とすなよ」
「はあ!?」
 押しつけられた膳を反射的に受け取った代筆屋が、素っ頓狂な声を上げたのと同時に俺はもう一度振り返り、柱の根元目掛けて駆け出した。
「あ、晴っ!」
 引き止めようとする代筆屋の慌てふためく声が聞こえたが、構わずに走った。
 魔物と対峙できるのは、俺だけだ。
 代筆屋と祐一がこれから先、恐れずに俺と一緒にいてくれるというなら。
 今ここで、火烏をきちんと封印し直さなければならない。
 魔物がいなくなったこの屋敷で、彼らとゆっくり晩飯を食べるために。



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