歌うように言ったのは、肩まで伸ばした赤い髪を、結わえるでもなくそのまま垂らし、黒地に桃色の花柄小紋を着流した、背が高く痩せた男。 俺はこの男が、少し苦手だ。だってさ…… 「全く、何処でそんな派手な柄物を見繕ってくるのやら」 からかわれた腹いせに、俺が口返答をしても、 「あ、やっぱり気がついた? これは遊里で、先の報酬を金子の代わりにって、貰ったんだ。お前に真っ先に見せたくてさ。どう、似合う?」 着物がよく見えるよう、袂の端を持って左右に広げ、その場にクルリと回ってみせる。 俺が言った嫌味など、気に留めもしない。 目端が利き、口達者で派手好み。おまけに目尻の下がった色男ときてるから、この男は遊里で人気があった。 「俺はさ。俺なんかに関わってると、そのうち遊君にまで見放されるぞって、言ってんの」 遠回しに言っても知らぬ振りをされるだけなので、今度は直接的に言ってみる。 恋文代筆を生業としているこの男が抱えている客の大半は、色街で花を売る遊君だ。 時には、滞納された金子の催促状をしたためることもあるようだけれど、頻繁に会いには来てくれない旦那への、切なる想いを綴らせれば天下一品だと、遊君からの覚えも高い。 反対に俺は、彼らから嫌われている。 遊君だけでなく、町人からも。 封魔師の俺は、確かに重宝されてはいるだろう。 でもそれは、魔物が現れた時に限ってのことだった。 魔物の姿が見えない皆からすれば、路地裏の行き止まりの、何ということもない壁をじっとみつめていたり、道端に転がっている石をひっくり返して、それの裏側に話しかけている俺は、さぞ気味悪く感じるに違いない。 俺に平気で近寄ってくる奴なんて、誰にでも優しい祐一か、この酔狂な代筆屋くらいのものだった。 「まだそんなこと言ってんのか」 それなのに、代筆屋は平然と言う。 「あいつらは、焼きもち妬いてんだよ。お前が遊里の君より別嬪さんとあっちゃあ、いつ旦那を盗られるか、知れたもんじゃねえからな」 「俺が、いつ……!」 カッとなって言い返すと、 「遊君は郭から外に出ねえから、世間のことには疎いんだ。白銀の髪に、すみれ色の目をしたお前は高嶺の花で、テメエの旦那なんぞ相手にもしてもらえねえってことを、知らないんだよ」 「俺は、別に……」 ページ一覧へ |