「それより、子供達はどうしてる?」 俺は祐一の気を逸らそうと、別のことを訊ねてみる。 「はい。皆、良い子にしています。母屋から出てはいけないと、言い聞かせてありますので」 「うん、それなら安心だ」 病気で亡くなったり、魔物に食い殺されたり、親を失くしてひとりになる子供は、跡を絶たない。 御上はそんな子供達のために、孤児院を作った。 祐一は二年前、御上に派遣されてこの町にやってきた守り人だ。 守り人とは子供のお守りをする人、即ち孤児を引き取って育てる人の俗称だ。 この屋敷は俺が生まれる前から孤児院として使われていて、御上直轄の施設だから、敷地は充分に広い。 例え魔物が護符から抜け出たとしても、母屋まで辿り着かぬうちに捕まえることはできるだろう。 子供達と祐一を守らなくては。 折角御上が、祐一のような優しい人を子供達の守り人として遣わしてくださったのに、俺が彼らを守れなかったんじゃあ、申し開きが立たないじゃないか。 それにこの孤児院は俺の実家でもあるから、思い入れも強いんだ。 幼い頃両親を亡くし天涯孤独になった俺は、ここに引き取られてから成人するまで、同じ境遇の子供達と一緒に暮らしていた。 その証拠に矢が刺さっている柱の根元の方、俺がさっきまでもたれかかっていた位置に、誰かと背比べをしてつけた傷がある。 高い方が俺、低い方は…… あの頃一緒に暮らしていた誰かには違いない。 けれどそれが誰だったのか、俺はちっとも思い出せずにいた。 「それじゃあ、僕は母屋に戻りますね」 俺が考え事をして黙り込んだのを、仕事の邪魔をしているとでも思ったのか、祐一が踵を返そうとする。 とその時、 「おう、ごめんよ」 引き戸が開いて、外から男が入ってきた。 「げっ、代筆屋」 「げっとはまた、ご挨拶だねぇ。え、晴?」 ページ一覧へ |