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封魔師 ―垂天の翼―
其の二

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「晴さん、お夕飯ですよ」
 この家の主の祐一が、膳を運んできた。
「あー、ありがと。もうそんな時刻?」
「はい、もうすぐ日が暮れます。あの……」
 口ごもった祐一が言えずにいる先の言葉は、俺にはちゃんと分かっている。
 俺達が今いるのは、祐一が住んでいる大きな屋敷の離れ家だ。
 同じ敷地内に炊事場と厠は別にあるから、この離れの中には何もない。
 引き戸を開けると三和土の土間があり、高い框を上がれば、板張りの床が広がっているだけ。
 まるでお寺のお堂のように広々とした空間の真ん中に、柱が一本立っている。
 夕餉の膳を運んできて三和土に立っている祐一からは、正面の柱に刺さっている矢が丸見えだった。
 正確には、矢に貫かれた護符が。
 呪い(まじない)文字の書かれた白い紙切れが、祐一には魔物の姿そのものに見えるのだろう。恐怖にすくんでしまい、目が逸らせないでいる。
 おまけにそんなものが自分の家の柱に貼りついたまま、間もなく二日目の晩を迎えようとしているんだ。
 このままで大丈夫なのかと、俺を問い質したい気持ちで一杯のはずだ。
「心配しなくていいよ、祐一」
 俺は立ち上がって框まで歩いていき、祐一から膳を受け取りながら言った。
「もうすぐ回収屋がやって来る。それまでは俺がコイツを見張ってるし、万一符の効力が切れて火烏が出てきても、もう一度封印し直せばいいことだ」
「はい。……でも、一度封じた魔物がまたお札から出てくるなんてこと、よくあるんですか?」
 そんなの、俺の方が訊きたいよ。
 封魔師は魔物を閉じ込めることはできても、魔物が入った護符に触れることができない。
 そこで、ヤツラを本来の居場所に連れていき解き放ってやるのに、回収屋の助けが必要になる。
 魔物を封じるとほどなくして、長くても一日も待てば、回収屋と呼ばれる人間が何処からともなくやって来て、中の魔物を護符ごと引き取ってくれるんだ。
 俺はこの仕事を十五の時からしているけれど、魔物を捕まえたのに回収屋が現れないなんてことは、今まで一度もなかった。
 おまけに、使用済みの護符の代わりに新しいものを置いていくのも回収屋の仕事だったから、俺は護符のからくりをよく知らないんだ。
 魔物を閉じ込めたまま放っておくと、どうなるのか。
 万一出てきたとして、もう一度ソイツを封じ直すことが可能なのか。
 考えたくもないことが現実に起きる前に、回収屋が到着してくれることを祈るしか、今の俺には為す術がなかった。



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あきゅろす。
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