「知っていたら、どうだというのだ。言っておくが、今度晴に馴れ馴れしく触れてみろ。御上より先に、俺が成敗してやる」 「ひえっ」 それなのに大志が剣呑なことを言ったので、聞いた代筆屋は大袈裟に悲鳴を上げ、祐一の後ろに回り込んだ。 おまけに逃げ込んだ祐一の背後から、面白がって大志を焚き付ける。 「そうか。会ったはなから俺に敵対心剥き出しだったのは、お前、俺が晴の尻を撫でるのをどこからか見てたんだな。それが気に食わないんだろう。いや青いねぇ、若いねぇ、晴は愛されてるねぇ」 「五月蝿い、黙れ」 低く唸りながら、作務衣の衿の合わせ目に手を突っ込む大志。 代筆屋を睨んだままゴソゴソと懐を掻き回している彼を、俺は呆れて止めなければならなかった。 「大志、見てたんなら助けてくれたら良かったじゃないか。それに護符じゃ、人間の代筆屋は封じられないぞ」 「うう、しかし」 「あはははは。お前、晴の尻に触らずとも既に敷かれてるじゃないか」 俺は、悔しそうに呻く大志を笑う代筆屋にも釘を刺す。 「代筆屋も大志をからかっている場合じゃないだろ。俺達が留守の間、祐一を守ってやれるのはアンタしかいないんだぞ。覚悟は決まったのか」 「打ち首になる覚悟かい? そんなもの、死んだってできやしねえよ」 「とぼけるな。祐一と恋仲になったからって、御上はアンタを処罰したりしないだろ。俺が聞きたいのは、今までの遊びをすっぱりやめて、祐一と添い遂げる覚悟ができたのかってことだ」 「ああ、うーん。それなんだがな」 代筆屋は一旦言葉を切ると、人差し指で額をポリポリと掻いた。 「俺はよ、今まで恋文代筆業の俺とお役人の祐一じゃあ所詮釣り合わねえと、どこか卑屈になってるところがあったんだな。だけどよ、魔物を引き寄せてしまうほどこいつを不安にさせちまってるのに、そうも逃げてらんねえしな。祐一が俺でいいって言ってくれるなら、この孤児院で一緒に暮らそうかと思うんだ。身分違いなんて、糞くらえだ」 「聞いたか、祐一」 「はい」 そっぽを向いて額を掻き続ける代筆屋の前で、祐一が恥ずかしそうに頷く。 |