今回の獲物は、梃摺るようなモノではなかった。 皆はソレを夜雀(ヨスズメ)と呼んで、夜中に鳴き声がすると怖がるけれど、本当は雀なんて可愛らしいモノじゃない、火烏(カウ)という、鶏くらいの大きさの―― 魔物だ。 姿は、鳥に似ていなくもない。 まあ、普通の人間には魔物の姿は見えないから、雀でも鶏でも、どっちでもいいんだけど。 「……はぁ、ダメだ」 俺は、要らぬ方向にいってしまった考えを一旦打ち切り、頭を振りながら板張りの床に胡座をかいて座った。 一晩夜明かししたせいで、身体が重い。背を、後ろの柱にもたせかける。 俺が今考えなければいけないのは、火烏が何に似ているかじゃない。 それより問題なのは、魔物を仕留めてから一日以上経つというのに、まだ回収屋が来ていないということだった。 「はぁ」 俺は短いため息をもうひとつ吐いてから、もたれている柱を見上げた。 柱のずっと上の方、立ち上がって背伸びしても届かない位置に、矢が一本刺さっている。 矢は護符を柱に縫い留めるために、昨夜俺が放ったものだ。 護符には今回の獲物である、火烏を封じてある。 本来なら火烏のような小物の魔物は、人が住んでいる家の中には入ってこない。 コイツらは、この世の何処にでもいるモノだけど、普段は古い井戸の底や狭い路地裏の袋小路の闇の中、蒲が生い茂って水底が見えない沼とかの、人間があまり寄りつかない所でじっとしているものだ。 それでもたまに住処を変えたくなるのか、移動する途中で、人が大勢集まる場所に出てくることがある。 普通の人間には魔物の姿が見えなくても、鳴き声は聞こえるし気配を感じる。 見えないモノが自分の傍にいて動き回れば、そりゃ誰だって恐ろしい。 大騒ぎになったところで、俺の出番だ。 ――符を以て魔を封ずる―― 俺のように魔物の姿が見え、護符に閉じ込めて動けなくする力を持っている人間を、巷では封魔師と呼んで重宝がった。 ページ一覧へ |