「でも、でも大志。祐一は相談したかったかもしれないじゃないか。俺が人の気持ちに鈍感だから、こんなになるまで気づいてやれなかっただけで。それに、火烏を上手く封じられなかったのは単に俺の力不足だ。代筆屋のせいじゃない」 「暢気なことを言っているが、分かっているのか。人との繋がりが余りに薄いあなたの今の状態では、直に魔物の側に取り込まれてしまうぞ。そうなれば、俺でさえ此方側に連れ戻すことは不可能だ」 「分かって…… る」 「いいや、分かっていない」 大志は深くため息をつく。 「あなたはそれでもいいと思っているだろう。何故人が住む此方側なら良くて、魔物のいる彼方側では駄目なのか、理解していない。いや、人間と魔物の区別がはっきりついていないと言った方が正しいか」 図星だ。 俺は唇を噛みしめた。 こうして面と向かって指摘されてさえ、そんなに魔物はいけないものなのかと考えているのだから。 さっき封じた火烏のように我を忘れて暴れたりしなければ、殆どの魔物は俺にとって害のない生き物だ。 気持ちは通じ合えないかもしれないけれど、それをいうなら人だって同じ。 近づいてこようともせずただ俺を遠巻きに眺めているだけの人間と、一塊になって蠢いている魔物の一体どこが違うというのだろう。 いや、俺を騙して売ろうとしない分、魔物の方がまだマシじゃないか。 「あなたが魔物を封じるのは、人間のためではない。魔物のためだ。人の世に迷い込んでしまった魔物を、もとの住み処に帰してやるためだ」 「嘘だろ、晴。そいつの言ってることはでたらめだ。幾らお前でも、人より魔物の味方をするってことは…… ない、よな……?」 代筆屋は祐一を抱えたまま、俺達が立っている土間の方へ向き直った。 「……」 不安げな彼の問いかけに、俺は答えられないでいる。 「晴、どうして……!」 「因果応報。これがアンタ達町の人々が、封魔師をなおざりにした結果だ。やはりあの時、無理矢理にでも攫っていくべきだったな。今回は絶対に連れていく。晴をこのままにはしておけない」 「待ってくれ。晴が、封魔師がいなくなったら町はどうなる? 祐一はどうなるんだ!?」 「特殊な能力を持ってこの世に生まれてくる者は多くない。封魔師がいない町なら他にもあるだろう。そいつらに訊いてくれ。俺の知ったことではない」 「そんな」 ページ一覧へ |