すると、俺と代筆屋のやり取りを見ていた大志が大仰に頷いた。 「成る程、あなた達は何でも話せる親しい間柄なのかと思っていたが、そうでもないのだな。この男は御上に罰せられるのが怖くて、守り人と深い仲になる気はないそうだ。嘆き悲しんだ守り人の陰気がまた魔物を引き寄せることになっても、それなら晴には関わりないことだな」 「大志?」 大志の言わんとしていることが理解できず、俺は首を傾げる。 と、突然立ち上がった彼に腕を掴まれた。 「晴、約束を覚えているか」 大志は言いながら俺を立たせ、有無を言わさず框の方へ引っ張っていく。 そして土間に降り立ち、壁に貼りついている護符を見上げた。 片手は俺を掴んだまま、もう片方の手で空に印を結び、短く呪(しゅ)の文言を唱えるとすぐさま矢を引き抜く。ヒラヒラと落ちてきた護符を手に取り、無造作に自分の懐に押し込んだ。 「行くぞ」 「ど、何処へ?」 引っ張られる強い力に抗うために、俺は精一杯足を踏ん張る。 すると拒絶されたと感じたのか、振り返った大志の顔が心なしか悲しそうに見え、チクリと胸が痛んだ。 「先程からのあなたの様子では、昔ここでした約束を覚えていないようだな。それとも俺が子供だったから、本気で取り合ってもらえなかったのか。まあ、それも致し方あるまい。名前を呼んでくれただけでも良しとしよう」 「な、何となくは覚えてるんだ。今思い出すから、少し待って」 「駄目だ」 「大志っ……!」 「おい、回収屋。晴はこの町にひとりしかいない封魔師だ。昔馴染みか何か知らねえが、そいつを連れ出そうなんて勝手は許されねえぞ。場合によっちゃあ……」 「場合によっては、なんだ?」 俺の困った声にも、代筆屋の凄味のある脅し文句にも怯むことなく大志は続ける。 「そのひとりしかいない封魔師に隠し事をして、窮地に陥れたのはどこの誰だ。アンタが守り人とのことをもっと早くに打ち明けていれば、この人だって対処のしようがあっただろう。到着が遅かったと先程俺を詰ったが、そうとばかりも言い難いな」 「うう」 そこで黙るなよ、代筆屋っ! 俺は心の内で代筆屋を罵りながら、今度は自力で反論を試みる。 ページ一覧へ |