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封魔師 ―垂天の翼―
其の十六

 俺は、再び頭を下げようとする大志を慌てて制した。
「そうだったのか。回収屋が現れなかった時は正直どうしようかと心細かったけど、そういう理由なら合点がゆく。俺の方こそ、助けてもらったのにろくな礼もしてなかったな。改めて礼を言う。大志、ありがとう」
 俺は大志に軽く頭を下げると、もうひとつ納得のいかないことを訊ねてみる。
「でもさでもさ、俺には祐一と陰気っていう組み合わせが今ひとつしっくりこないんだけど。人間の陰の気ってつまり、怒りや悲しみや嫉妬のことだろ? 祐一はいつも穏やかでとても優しいんだ。孤児院の子供達を怒っているところも見たことがない。それなのに魔物を引き寄せるほどの陰気っていうのが…… 俺には言えない仕事のことで、何か悩んでいたんだろうか」
「それはこの男が知っているだろう」
 大志は今までいないものとして扱っていた代筆屋に向かって、クイと顎をしゃくる。
 口を挟もうにも大志にことごとく無視され、諦めて腕の中の祐一に視線を落としていた代筆屋はいきなり話を自分に振られ、驚いて顔を上げた。
「な、なんだよ」
 俺は何も……
 おい、二人して、そんな目で俺を見るなよ……
 最初はシラを切り通そうと頑張っていた代筆屋も、俺と大志の無言の圧力に屈して項垂れてしまう。
「だってよお。こう見えてお役人だぜ、高級官吏だぜ? 手ぇ出したのが御上にバレたら、俺ぁ打ち首になっちまう」
「それで意気地が出ずに気持ちにも応えてやらず、他所の男の尻を追いかけていれば世話はない」
「追いかけるったって、茶屋で可愛い子をからかったり、郭で遊君と賽子振って遊んでるだけだ。やましいことは何もねえ。第一、俺が惚れてるのはこいつなんだ。それ以外は抱く気もねえよ」
「ならさっさと本懐を遂げて、打ち首になるがいい。アンタも本望だろう」
「ひ、酷ぇ」
「ち、ちょっと待った」
 俺は、ポンポンと遣り合う二人の会話を遮った。
「二人とも、さっきから何の話をしてる? 俺が知りたいのは代筆屋が惚れた人じゃなくて、祐一のことなんだけど」
「だからそれが、この守り人だろう」
「えっ」
 驚きすぎて、二の句が告げない。
 そんな俺に呆れ顔で大志が言った。
「この二人が相思相愛だということに、今まで傍にいて気がつかなかったのか」
「う、うん。祐一も代筆屋も、何にも言ってくれないし。そうか、その着物も、ほんとは俺にじゃなく祐一に見せに来たんだな」
 恨めしげに代筆屋を睨むと、彼は慌ててそっぽを向く。





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