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封魔師 ―垂天の翼―
其の十五

「おーい。こっちは何事かあるんですけどー」
 怒る気も失せたと言いたげな、代筆屋の呆れて間延びした声が間に割って入るまで、大志はずっと俺に見入っていた。
「そうだ。本当に祐一は問題ないのか?」
 みつめられて再び顔が熱くなり始めていた俺は、代筆屋に茶化されて大志の視線が自分から外れたことに、安堵と少しばかりの物足りなさを覚えながら訊いてみる。
 俺は物心ついた時には既に魔物が見えていて、這えばじきに立って歩き出す人間の赤ん坊同様、疑問に思うこともなく封魔師になったけれど、周囲に教えを乞うたり相談できる相手がひとりもいなかった。
 俺には弓を使って射止める以外の、魔物に関する知識が圧倒的に足りない。
「ああ。明日の朝には目を覚ますだろう。今回は」
「今回は?」
「おい、若ぇの。それはどういう意味だ」
 大志の言葉に、代筆屋が聞き捨てならねえなと口を挟んだ。
 ところが大志はここにはあなたしかいない、といった風情で代筆屋を無視したまま、俺にだけ語りだす。
「晴。本来魔物と人間は住み処を別にして、お互い干渉しあったりしないものだろう。それなのに魔物がしばしば人の生活の場に現れるのは、どうしてだと思う?」
「ええっと、それは…… 魔物が移動途中に群れからはぐれて迷子になるのかな、と」
「そういうこともあるだろうな。だがそれなら、群れを探して帰ればいいだけの話だ。あいつらには、帰れなくなる理由がある」
「?」
 続きを催促するために、俺は首を傾げて大志を見上げた。
「魔物は人間の陰の気に吸い寄せられてやって来る。そして気に当てられると、酔って動けなくなる。人の近くで動けなければ、ますます気を浴びることになる。陰気に依存した魔物は自ら人の気を吸い始め、吸い続けられた人間はやがて病み衰えて死ぬ」
「陰気……」
「これが、人が魔物に取り憑かれたり食われると恐れられていることの真相だ」
 大志はもう分かるだろうと、一旦口をつぐむ。
「じゃあ、火烏は佑一の陰気に当てられて、この屋敷から出られなくなってたってこと? 曇った瞳で俺を見て笑ったあれは、祐一に取り憑いた火烏か」
「今回はあなたが傍にいて一度護符に封じたから、守り人はそれほど気を吸われてはいないはずだ。回収屋は自分が描いた護符が使われればすぐに分かる。しかし、あなたが持っていた札は俺の親父が描いたものだ。使われた痕跡になかなか気づくことができず、到着が遅れてしまった。俺のせいであなたを危ない目に遭わせてしまったと思うと肝が冷える。晴、本当に申し訳なかった」





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