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封魔師 ―垂天の翼―
其の十四

「心配ない。気を失っているだけだ」
 そこへ落ち着いた低い声で大志が言った。
 祐一を抱きやすいようにと、代筆屋が片手に持っていた夕餉の膳を取り上げ框の端に置いた大志は、俺のところへ戻ってくる。
 その後ろに祐一を横抱きに抱え直した代筆屋が続き、框を上がってきて板張りの床に座った。
「祐一」
 俺は慌てて代筆屋の横に膝をつく。
 彼の腕の中で目を閉じている祐一の頬は手を当てると温かく、俺を安心させた。
「なあ晴、祐一は本当に大丈夫なのか? さっきの様子がいつもと違ってた」
 すっぽりと懐に収まった祐一を見下ろしながら、代筆屋が心配そうに言う。
 確かに先刻俺を見て笑ったあれは、祐一じゃなかった。
 耳元まで口が裂けた恐ろしい形相を思い出し、知らず身震いが走る。
「大丈夫…… だと思う。大志がそう言うなら」
 自信無く答えると、代筆屋は俺の隣、自分の真ん前に座りこんだ大志をジロリとねめつけた。
「へえ。晴に信用されてるなんて、そりゃまた羨ましいこって。随分な色男だけど、ここいらでは見かけない顔だな。どちらさん?」
 代筆屋は如何にも気に入らないというのがまる分かりの、棘のある声を出す。
「……」
「回収屋だ」
 訊ねられた本人が何も語ろうとしないので、仕方なく俺が仲立ちに入った。
「あ、回収屋だ? この若いのが!? それにしては、思わせ振りな登場の仕方だったな」
「代筆屋」
 彼の嫌味な物言いを窘めようと声をかけると、
「なんだ晴。お前はこいつの肩を持つのかよ。回収屋がなかなかやって来なかったせいで、祐一はこんな目に遭ってるんじゃないのかい? お前だって二日寝てねえんだろう」
 口角から泡を飛ばして、代筆屋は更に言い募る。
「う…… そう、だけど……」
「そんなに待たせてしまったのか。晴、すまなかった。その間、あなたに何事もなくて良かった。加護してくれた神仏に言祝(ことほぎ)を述べよう」 
 代筆屋の文句をどこ吹く風と聞き流していた大志が、俺にだけ頭を下げた。
「いや、ええっと…… 別に、そんなには……」
 顔を上げた大志の長めの前髪から見え隠れする涼やかな目に捉えられ、俺はしどろになってしまう。





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