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封魔師 ―垂天の翼―
其の十三

 俺は矢を素早く筒から抜き取り、極彩色の護符を矢尻の先にあてがった。
 矢をかけた弓を高く持ち上げ、弦を一度軽く引く。
 そこで動作を止め、大志の背中を見た。
 柱から一直線に離れていく大志の身体の向こうに、祐一を抱きしめたまま立っている代筆屋が見え隠れしている。
 火烏だけを。
 俺は自分に言い聞かせる。
 当てるべき的はただひとつだ。
 呼吸を整えながら再び弦を引き始め、限界まで引ききったところで暫し待つ。
 まだ、まだだ。
 逸る気持ちを抑え、開いた腕の震えと息をする度に前後する胸の動きだけを感じた。
 そのうちに魔物の鳴き声、大志が床を蹴る音、代筆屋の上げる悲鳴、今ここで鳴り響いている騒々しいばかりの音の全てが消え失せていき、俺はただひとり切り離された、別の世界に佇んでいる感覚に陥る。
 そうすると大志も、大志の頭上に迫る火烏の翼の動きも止まって見え、火烏の尻についている尾がピンと、上を向いているのさえはっきりと見てとることができた。
 今だ。
 火烏の後ろ姿と矢じりの焦点がピタリと合った時、俺は親指を離した。
 充分に待たされた矢は高い唸りを上げて飛んでいき、今度こそ間違いなく魔物を射抜く。
 それでも勢いの衰えない矢は弧を描きながら大志を飛び越し代筆屋の頭の横を掠め、一番奥の土間の壁に突き刺さった。
 軌跡がギリギリだったとみえ、矢が代筆屋の横を通りすぎると、矢尻に切られた彼の長く赤い髪が、数本ハラハラと辺りに飛び散った。
「ヒエッ、俺の髪!」
「ふう。……よし」
 俺はその場に立ったまま弓を下ろすと、やっと安堵の息を吐く。
「よくねえっ。俺の髪が!」
 矢に中心を貫かれた護符は火烏を見事に封じ込め、ぴくりともしない。
 それなのにやっと戻ってきた静寂を、代筆屋の姦しい叫び声が台無しにする。
「煩いな。髪ならまた生えてくるだろ」
 俺は気が緩んで彼に軽口を返すと、
「なあ俺の髪形、おかしなことになってやしねえか? 早速髪結い床に行ってこなきゃ…… あっ、祐一!?」
 ひとり騒いでいた代筆屋が慌てて祐一を抱え直したので、再び身体に緊張が走った。





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あきゅろす。
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