記念の小説
発熱カプリチオ 終


「記念って、何のだ?」
 ハルの誕生日は秋だから桜が散ったこの時期ではないし、それなら“オブシディアン”の曲がヒットした祝いだろうか? 大志には他に思い当たる節が無い。
「……の」
「え? 何だって?」
「フ…… スの」
 晴の返答の声が余りにも小さくて、大志は何度も聞き返す。
「ハルすまない、聞こえない。もう少し大きい声で言ってくれ」
「……こ、この前の、ファーストキスの記念だっ! 恥ずかしいことを、何度も言わせるなっ!」
「ああ何だ、そうか。この前のファーストキスのか…… キスの記念…… ええっ!」
「……タイシがそんなに驚いてどうすんだよ」
 もう、と真っ赤になって上目遣いに自分を睨んだ晴の色っぽさにドキリと胸が鳴り、大志は堪らずヒョイと晴を抱え上げる。
「ゆっとくけど、今俺の顔が赤いのは、熱があるからじゃないんだからな。お前のせいなんだからな」
 軽々と大志の膝の上に抱き上げられた晴は、恥ずかしさも手伝って尚も言い募ろうとする。
 そんな晴の赤くなった綺麗な顔をすぐ間近に見つめながら、大志はうっとりして回らなくなってきた頭の片隅で考えていた。
 どうしてハルはいつもいつも、オレを有頂天にさせるようなことを言ってくれるのだろう。
 この人は気づいているのだろうか。自分の行動や言葉がどれだけオレを心配させたり、逆に嬉しさで舞い上がらせたりしているのかということに。
「タイシ、俺の話聞いてる?」
 不満気に尖った可愛らしい唇を目の前に、遂に我慢の限界がきて大志はチュッと音をたてて、晴にキスをする。
「ダメだよ、タイシ。お前に風邪がうつる…… ん……」
「構わない」
 ひとことだけそう返すと、大志は晴が避けようとずらした顔を自分の大きな掌で包み込み、2度3度と彼のふっくらした唇に優しくキスを落とした。
 晴の唇は、ジンジャーと蜂蜜の味がした。
 その味は大志にとって生涯忘れられない、ちょっぴりスパイシーでほんのりと甘い、とびきりの幸せを象徴する味になった。





2010.09.07
改訂2011.05.15




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