ヘタレ攻めから5のお願い
Bカッコ悪いから見ないで 2

 その男前に肩を組まれたまま昇降口に入っていくと、
「あっ」
 佐々木が短く叫んで、慌てて俺の肩に回していた自分の腕を、パッと外した。
「?」
 そして俺が不思議に思っている間にも直立不動の姿勢を取り、下駄箱の奥にある廊下に向かって、きっちり四十五度のお辞儀をする。
「ちわーっす!」
 さすが野球部。
 お辞儀をする姿がサマになっている。
「佐々木、元気そうだな」

 え?
 この滑舌のいい、愛らしい声は……

「はい。前柴さん、お久し振りです。たまには部活に顔、出してくださいよ。皆が寂しがってます」
「いや。引退した俺が今更グラウンドに行っても、いろいろと気を使わせるだけだろ」
「そんなこと、ないですよ」

 アハハハハ。
 エヘヘヘへ。

 何だ? この白々しい、社交辞令っぽい会話は。
 何だか…… 怖いぞ?
 二人が向かい合っている空間に一瞬火花が散ったように見えたのは、俺の気のせいかな。

 前柴先輩はつい最近まで、佐々木と同じ野球部だった。
 三年生だから、この前の夏の大会を最後に部活を引退したんだけど、ショートで四番バッターで、大きな声を出して部員全員を引っ張っていく、熱血キャプテンだった。
 ついでに言うと、前柴先輩と同級生の俺の兄ちゃんも野球部で、セカンドを守っていた。打順は五番。
 野球部は基本、全員の仲が良い。
 一致団結というか、部員ではない俺が気安く入っていけないような雰囲気が、彼らにはある。
 実際、俺の家には兄ちゃんがいるから、野球部の人達がしょっちゅう集まってきて、そこで俺は前柴先輩と出会ったんだ。
 先輩の第一印象は、身体が小さくて、でも目は大きくて、野球をやっているようには見えない可愛らしい人、だった。
 気になって、いつも兄ちゃんの部屋のドア越しに先輩を覗き見ていた俺だけど、楽しそうに笑っている彼らの中に入っていく勇気は、到底無かった。
 そんな俺が、高校生になって初めて野球部の試合を応援しに行った時、誰よりも大きな声を出してピッチャーを励まし、キビキビと守備についてヒットを打って、いつもの見慣れた可愛い彼とは全然違う、ユニフォーム姿のカッコ良くて男らしい前柴先輩を見て、恋をしちゃったんだ。
 こういうのをギャップ萌え、というらしい。
 この姿かたちは可愛らしいのに、男っぽくて頼りになるキャプテンを、佐々木も好きだった筈だ。
 野球部の先輩としてって意味だけど。
 でないと、男前の佐々木と張り合ったりなんかしても、俺に勝ち目は無い。
 それなのに、今この二人の間に漂っているピリピリとした空気は、何だろう?




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あきゅろす。
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