バコーン! やけに威勢のいい音がグラウンドに響いて、白い球が俺に向かって飛んでくる。 「センター、行ったぞぉ!」 「おおっ!」 俺は元気良く返事をすると、右手に嵌めたグローブを高々と上げた。白球が空に描く弧を目で追いかけ、球の落ちてくる場所に先回りして正面を向く。 「オーライッ」 足に少しだけ自信がある俺は、大きなフライ球に楽勝で追いつくと、余裕の万歳をして球を待ち構える。 白球は、俺の右手のグローブに綺麗に収まった―― 「ああっ」 筈、だった。 「コラァ、中井! 何やってんだぁー!!」 「センターが球落としたぞぉ! ヨッシャ、回れ、回れ!」 ――その筈だったのに、球はグローブを掠めただけで、無情にも俺の後ろへ落下する。 地面に跳ね返ってバウンドを繰り返す音が、ポーンポーンと、背中越しに響いた。 「えっ、え?」 俺は大きく万歳をした姿勢のまま、その場に固まった…… 四時限目は、体育の授業。 今月の体育は、ソフトボールのクラス対抗試合をやっていて、うちの高校の一年男子の間では静かな盛り上がりをみせていた。 一年生は全部で八クラスあり、俺達三組の今日までの戦績は、四勝二敗。総当たり戦だから、あとひとつ負けても勝ち越せる。 「はぁ」 でも俺があのフライさえ取っていれば、今日も勝てたのに。 試合が終わり、四時限目の終業を告げるチャイムが鳴る中を、俺は肩を落としてグラウンドから昇降口に戻る。 「ナイス、センター」 「おう、サンキューな、中井」 「見事なバンザイだったぞ」 その間次々と、対戦相手のクラスの奴らから冷やかしの声がかかる。 その度に背中や腰の辺りをバシバシ叩かれて、皆より頭ひとつ分背が高い俺の背中は、段々丸く、低くなっていった。 「ドーンマイ、中井。あんまり気にするな」 「気にするなって言われても…… はぁ、ごめん」 「だから。次はオレがガンガン打って点入れて、お前がバンザイしようがトンネルしようが、勝たせてやるから」 「佐々木、それ慰めになってないよ」 「そうか? アハハハハ」 佐々木は同じクラスで、俺と一番仲が良い。 彼も俺と同じくらいの身長があるから、今みたいにこうやってよく肩に手を回されて、引き寄せられる。 佐々木が俺の耳元でさっきのエラーを豪快に笑い飛ばしてくれると、少しだけ気が楽になった。 いい奴なんだ、佐々木は。 さっぱりしていて男らしいし、身体も懐も大きい。 おまけに男前だ。 |