ヘタレ攻めから5のお願い
A俺なんかでいいんですか? 2

 抵抗も虚しくグイグイと引っ張られ、俺は自分ん家の玄関から前柴先輩の後に続いて、外に出た。

 お、お、怒ってる。

 先輩、絶対怒ってる!

 俺は暗くて狭い路地に連れ込まれ、はたまた、学校の体育館裏に引きずり出される自分を想像してみる。
 そしてその想像は、悪い方へ悪い方へと発展していく。

 あ、謝ってしまおう、取り敢えず。

 昨日言ったことは嘘です、冗談です、ごめんなさい、と。

 ……。
 ……駄目だ。
 嘘は言えない。

 俺が先輩のことを好きなのは本当で。

 それを自分自身で冗談だと笑い飛ばしてしまったら、ガラス製のマイハートは、きっと粉々に砕け散ってしまう。

「おい、中井の弟」

 道路に出てふたりっきりになったところで、ネクタイを後ろ手に握り締めたままの先輩が俺を呼ぶ。
 俺は覚悟を決めて、ギュッと目を閉じた。

 先輩。
 先輩の気が済むまで、俺を殴ってくれていいです。
 それでも俺が先輩を好きだと言ったことは、撤回できません。

 ごめんなさい、気持ちの悪い思いをさせて。

 ごめんね、前柴先輩。
 男の俺が男の先輩を好きになって、ほんと、ごめん。

「お前さぁ。せめて携帯の番号ぐらい、教えてから帰れよ」

 いつまでたっても飛んでこない拳を不思議に思い、俺がそっと目を開けてみると。

 前柴先輩は相変わらず俺のネクタイを後ろ手に握っていて、俺の方は見ずに前を真っ直ぐ向いている。

「一緒に学校行こうと思っても、お前と連絡取れねぇし。玄関チャイム鳴らしても、お前出てきてくんねぇし。おまけに、お前の兄貴には冷やかされるし」

 背中を向けている先輩の顔は、俺からは見えない。

 けれど目の前にある、短く刈り込まれた髪からあらわになっている先輩の両耳が、赤くなっているのが見えた。

「付き合えって言ったのは、お前の方だろ」

 ……?

 ……え?

「何とか言えよ、こら」

 えええっ!

「お、お、お……」

 俺なんかで…… いいの?

 本当に俺なんかでいいんですか、前柴先輩!?



2010.11.14
改訂 2012.07.09





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