ヘタレ攻めから5のお願い
A俺なんかでいいんですか? 1


 朝飯は断然、パンより白いご飯!
 しかし今朝の俺は、あまり食欲が無かった。

「ゆずる。おかわりなんかしてっと、学校遅刻すんぞ」

 ……兄ちゃん。
 絶賛思春期真っ最中の高一男子の、ガラスでできているハートを土足で踏みつけるのは、止めてください。

「はぁ」

 俺は炊飯器の前に立ち、右手にお茶碗、左手にしゃもじを握り締め、昨日から何回ついたか分からないため息をもう一度つく。

 昨日。
 学校の帰り道で。

 俺は前から好きだった先輩に告白した。
 というか、追い詰められて告白させられた。
 言うつもりじゃなかったんだ、ほんとは。
 好きです、だなんて。
 相手は二つも上の先輩で、俺の兄ちゃんの友達で。
 そして…… 男、だ。

 あの時頭が真っ白になっていたとはいえ、俺はなんてことを口走ってしまったんだろう。
 同級生の弟なんかに告られて、気分を悪くしただろうか。
 今度先輩に会ったら、俺、どうしたらいいんだろ?

「はぁ…… 前柴、斎(イツキ)先輩」

 好きな人の名前を呼んでみる。
 昨日からため息と一緒に、もう何回呼んだことか分からない。

「なんだ?」

 すると聞き覚えのある、部活で鍛えられたよく響く愛しい声が、返事をしてくれたりして。

 あら、嬉しい。
 ついでに俺の名前も、呼んでくれないかしら?

 じゃ、なくて。

「前柴斎…… 先輩?」
「だから、なんだって。朝っぱらから人のことをフルネームで呼ぶな。鬱陶しい」
「!!」

 俺は驚いて、茶碗としゃもじを握ったまま、右足を軸にして左向きに百八十度回転した。
 頭と背中がキッチンの壁に勢い良く当たり、ビタンッ! と、嫌な音をたてたが、そんなことには構っていられない。

「ど、ど、ど……」
「『どうしてここに』だってよ、斎」

 壁に背中を押しつけられて逃げ場を失い、またしても追い詰められた状態になっているのは、気のせいだろうか?

 けれど慌てて振り返った俺の目の前には、何度見直してみても、本物の前柴先輩が立っている。
 その隣でニヤニヤしながら、兄ちゃんがこっちを見ているのは余分だけど。

「は? どうしてって…… お前、学校行かないのか? 朝飯、もう食い終わったんだろ」

 昨日の帰り道と同じように、先輩は不機嫌な顔でそう言うと、ほら早くしろと、俺の制服のネクタイをグイッと引っ張った。

「い、いやぁー!!」
「うるさい! おい中井。お前の弟、借りてくぞ」
「どうぞー。ご自由にー」

 に、兄ちゃん!

 自分の大事な弟を、焼肉屋のレジの横に置いてある、お持ち帰り自由のハッカ飴や、ミントガムみたいに言わないでっ!




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あきゅろす。
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