朝飯は断然、パンより白いご飯! しかし今朝の俺は、あまり食欲が無かった。 「ゆずる。おかわりなんかしてっと、学校遅刻すんぞ」 ……兄ちゃん。 絶賛思春期真っ最中の高一男子の、ガラスでできているハートを土足で踏みつけるのは、止めてください。 「はぁ」 俺は炊飯器の前に立ち、右手にお茶碗、左手にしゃもじを握り締め、昨日から何回ついたか分からないため息をもう一度つく。 昨日。 学校の帰り道で。 俺は前から好きだった先輩に告白した。 というか、追い詰められて告白させられた。 言うつもりじゃなかったんだ、ほんとは。 好きです、だなんて。 相手は二つも上の先輩で、俺の兄ちゃんの友達で。 そして…… 男、だ。 あの時頭が真っ白になっていたとはいえ、俺はなんてことを口走ってしまったんだろう。 同級生の弟なんかに告られて、気分を悪くしただろうか。 今度先輩に会ったら、俺、どうしたらいいんだろ? 「はぁ…… 前柴、斎(イツキ)先輩」 好きな人の名前を呼んでみる。 昨日からため息と一緒に、もう何回呼んだことか分からない。 「なんだ?」 すると聞き覚えのある、部活で鍛えられたよく響く愛しい声が、返事をしてくれたりして。 あら、嬉しい。 ついでに俺の名前も、呼んでくれないかしら? じゃ、なくて。 「前柴斎…… 先輩?」 「だから、なんだって。朝っぱらから人のことをフルネームで呼ぶな。鬱陶しい」 「!!」 俺は驚いて、茶碗としゃもじを握ったまま、右足を軸にして左向きに百八十度回転した。 頭と背中がキッチンの壁に勢い良く当たり、ビタンッ! と、嫌な音をたてたが、そんなことには構っていられない。 「ど、ど、ど……」 「『どうしてここに』だってよ、斎」 壁に背中を押しつけられて逃げ場を失い、またしても追い詰められた状態になっているのは、気のせいだろうか? けれど慌てて振り返った俺の目の前には、何度見直してみても、本物の前柴先輩が立っている。 その隣でニヤニヤしながら、兄ちゃんがこっちを見ているのは余分だけど。 「は? どうしてって…… お前、学校行かないのか? 朝飯、もう食い終わったんだろ」 昨日の帰り道と同じように、先輩は不機嫌な顔でそう言うと、ほら早くしろと、俺の制服のネクタイをグイッと引っ張った。 「い、いやぁー!!」 「うるさい! おい中井。お前の弟、借りてくぞ」 「どうぞー。ご自由にー」 に、兄ちゃん! 自分の大事な弟を、焼肉屋のレジの横に置いてある、お持ち帰り自由のハッカ飴や、ミントガムみたいに言わないでっ! |