柔らかい。 湿ってる。 先輩も恐る恐る俺の首に腕を回して、応えるように唇をつき出してくれる。 俺は今まで女の子とも誰ともキスなんてしたことなくて、すぐにこのファーストキスに夢中になった。 正面から唇を押しあてて暫くすると、苦しくなったらしい先輩が息を吸うために、重なった唇を外そうとする。俺は先輩が離れていくのが無性に惜しくて、掴んだ顔をこちらに向かせ、改めて唇に吸いついた。 「んっ、ん」 すると先輩は小さく呻きながら、今度は反対側へ顔をずらそうとする。俺は逃げる唇を追いかけ、更に手のひらに力を込めた。 「んー! も、やめっ……」 そんなことを繰り返すうちに、前柴先輩はたまりかねて抗議の声をあげたけれど、頭の天辺から足の爪先までゾクゾクと震えが走り、全身の血液がとある部分に集まり始めていた俺には、もう止めてあげることができない。 そればかりか、俺の肩を押したりパジャマを引っ張ったりして、身体を引き剥がそうと懸命にもがいていた先輩が、とうとう酸欠状態で力が抜けぐったりしてしまったのをいいことに、覆い被さるように後ろに押し倒した。 都合良く、そこには丁度俺のベッドが。 「うわっ、ちょっ…… ちょっと待て!」 二人分の体重を支えなければならなくなったベッドの、スプリングが軋む音で我に返った前柴先輩は、俺の身体の下で必死に身を捩る。 「先輩、前柴先輩」 俺は逃げられないように彼の両脚を広げさせ、股の間に入り込むと、右手を先輩の髪の毛の中に突っ込んで頭を固定させる。 今度はチュッチュッと音を立てて、唇を吸い上げた。 同時に空いている左手で彼の制服のカッターシャツの裾を捲り、中に手を滑り込ませる。 「うあっ! あ…… うっ」 余分な脂肪がついていない滑らかな脇腹を撫で擦ると、ベッドに放り出されていた彼の両手がシーツをギュッと掴み、顔が思い切り仰け反って合わせていた唇が離れ、一際大きな声が上がった。 身体を震わせ、気の毒なくらいに仰け反らせた彼の顎の下に、筋の浮いた細い首が現れて、俺は誘われるまま綺麗に浮き出たその筋を、舌を広げてゆっくりと舐め上げる。 「ふっ…… あ、んんっ」 「先輩、感じる?」 「っ! も、やめ、ろ…… んっ」 「前柴先輩」 「あっ、ま…… て、やめ……」 俺が邪魔になる彼のシャツのボタンを、上から三つほど外したところで。 「ゆ、ゆずるっ! 待て!」 ピタリ。 先輩に名前を呼ばれた俺は、動きを止めた。 四つん這いの姿勢のまま硬直している俺の身体の下から、今がチャンスとばかりに前柴先輩は抜け出ていってしまったけれど、俺は初めて名前を呼んでもらえた感動に、ジーンと痺れて動けないでいた。 その間に先輩は転がり落ちるようにベッドから降り、フローリングの床の上に手をつきヘナヘナと座り込む。 ハァハァと荒い呼吸を繰り返す裸の胸が、乱れたカッターシャツの隙間から見え隠れしていて、かなり、エロイ。 「先輩。今、俺の名前」 「お、お前、何。 ど、どこでこんなこと覚えてきた」 手の甲で口を拭っている彼の瞼の端が、ほんのりと赤い。 乱れた呼吸を整えるために上下する肩の丸みが、まるでおいでおいでをするかのように俺を誘っている。 「もう一回、もう一回呼んでください。……俺の、名前」 痺れが解けた俺は、フラフラと前柴先輩に近づこうとして。 「あっ、こら。待て、だろ。まだ駄目だ」 「えっ」 「そのまま、ステイ!」 「ステイって。そんな俺、犬じゃないし」 「何言ってんだ、盛りのついた大型犬そのものじゃないか。うちの犬の方が、お前よりよっぽど俺の言うことをきく。お前、熱があるんだろ。病人は病人らしく、大人しく寝ていろっ!」 「そんな」 いつもの調子に戻ってしまった前柴先輩に一喝されて、俺はシュンと肩を落とす。 「これからは、俺がきちんと躾けてやるから覚悟しろよ。俺はお前の兄貴達みたいに、甘くないからな」 「ええー」 「ええー、じゃないだろ。返事は? ……ゆずる」 「っ! は、はい!」 「よし」 ベッドの上でピシッと背筋を伸ばし、きちんと正座までして答えた俺を見て、前柴先輩は満足気に微笑んだ。 2011.01.05 改訂 2012.07.11 |